尻尾の釣り(読み)しっぽのつり

改訂新版 世界大百科事典 「尻尾の釣り」の意味・わかりやすい解説

尻尾の釣り (しっぽのつり)

昔話キツネ尻尾で魚釣りを試みて失敗する話。〈川獺(かわうそ)と狐〉とも呼ばれる。キツネがカワウソに魚の捕らえ方を問う。カワウソは,キツネの尻尾を水にひたして釣ると教える。キツネはだまされたと知らずに,尻尾を水に入れる。やがてキツネの尻尾は凍結し,そのために逃げることができず人間に捕らえられる。またカワウソの招待を受けながら,いっこうに答礼饗応をしないキツネと,それを憤慨するカワウソの仕打ちとしても語られる。現にこの昔話の行われる山形県北地方では,招きかえさない非常識をさす〈川獺のおつかい〉のことわざがある。カワウソに代わるものとしてところによってはカエル・カニ,キツネにはオオカミ・タヌキ・猿などがあてられる。人とキツネの例もある。いずれの場合も,水辺にある動物と陸地山野に棲息する獣との対立を語る。それらを端的に示す例としてキツネや猿が,タコを得ようとして尾を出し,タコの足につかまれて海中に引き込まれる話型もある。日本では,キツネや猿は農耕神として意識され,カワウソなど水辺の生き物にも水をつかさどる神の存在をみてきた。キツネとカワウソが得ようとする魚は,神饌として旧正月に供えられるものと重なる場合が多い。また〈人と狐〉で語られる,雪の中の鯉やフナを捕らえる漁法は,正月のさかなを実際に用達する時のそれと同じである。日本で語られる〈尻尾の釣り〉には,もう一つ〈籠引型〉と呼ばれる話型がある。オオカミの尾に籠を結び川を歩かせるキツネの話である。これは,イソップ寓話に同じ例が認められる。
執筆者: この話とほとんど同じ型の話が主として北欧東欧に分布しており,日本とヨーロッパの昔話の類似を示す代表的な例である。ヨーロッパの話では,尻尾で釣りをするのはクマ(またはオオカミ)が多い。氷が重要な材料になっているので,この話は明らかに北方の国に起源をもつと考えられる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の尻尾の釣りの言及

【魚】より

…これらの人々が言語,文化の伝播に果たした役割は大きい。魚が昔話や伝説の不可欠の構成要素とされているものに,助けた魚が女の姿となって女房になり幸運を与える〈魚女房〉,動物が尾で魚を釣ろうとして氷に閉じられしっぽを失う〈尻尾(しつぽ)の釣り〉などがあり,魚を捕らえて帰る途中で怪しいことが起こり復讐を受ける〈おとぼう淵〉〈よなたま〉などの伝説(〈物言う魚〉)は,魚が水の霊の仮の姿であるという信仰があったことを物語っている。淵の魚をとりつくす毒流し漁を準備しているとき,それを戒める旅僧に食物を与えたところ,獲物の大魚の腹からその食物が現れ,漁に参加した者がたたりを受けたという話(魚王行乞譚,〈物食う魚〉)もこの古い信仰の流れの末である。…

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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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