フナ(読み)ふな(英語表記)wild goldfish

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フナ」の意味・わかりやすい解説

フナ
ふな / 鮒
wild goldfish
crucian carp
[学] Carassius spp.

硬骨魚綱コイ目コイ科フナ属Carassiusの淡水魚の総称。ユーラシア大陸の寒帯から亜熱帯域に広く分布していたが、現在では世界中に移入され、北アメリカをはじめ各地で野生化している。一見コイに似ているが、フナはひげをもたないので容易に識別できる。体形や背びれの付け根もコイよりは短いので、すこし見慣れると、一見しただけで判別が可能である。背びれ軟条数は11~18本程度で、コイの17~20本よりも少ない。ただし、コイとは近縁であり、両者の中間的性質をもつ雑種コイフナが容易に作出できるし、自然でもそれがみられる。

[水野信彦]

生態

平野部の湖・沼・池や、それに連なる細流、河川の中流域から汽水域にかけて生息し、底生・浮遊性の動植物を幅広く摂食している。冬季には湖沼や河川の深所に潜んでいるが、3~7月、水温17~20℃のころに浅い所に移動し、早朝に水草や浮遊物に卵を産み付ける。1尾の産卵数は体の大きさで甚だしく相違がある。通常の大きさのものでは4万~8万粒程度であるが、大形魚では15万粒に達する。産着卵の直径は1~1.7ミリメートルぐらいで、緑色みを帯びている。水温15~20℃で5~10日で孵化(ふか)する。孵化した仔魚(しぎょ)は全長3.5~5.5ミリメートル程度で、コイの仔魚と同様に、しばらくは水草や浮遊物に頭部をつけて懸垂し、水面付近にとどまる。一般に雌雄とも2年で全長8~20センチメートルに達し成熟するが、飼育条件下での成熟は全長4~5センチメートルの1歳魚でもみられることがある。

[水野信彦]

分類

フナ類の形態と生態は変化に富むので、分類が混乱しており、まだ定説らしいものさえない。たとえば、ユーラシア大陸のフナには大別して二つのグループが存在する点では一致しても、各グループ内での変異が大きいために、ヨーロッパ産とアジア産に二分する説と、ユーラシアのほぼ全分布域で2グループが共存するとみなす説とが対立しているありさまである。日本産のフナについても同様で、キンブナギンブナニゴロブナナガブナゲンゴロウブナの少なくとも5群が存在している点ではほぼ一致しても、これらすべてを同種内の亜種とみなす1種説から2種説、3種説まで提出され、学名も未確定といってよい。

 キンブナ(金鮒)は、マルブナ、キンタロウブナともよばれる。日本全国に分布し、体高が低く、全体に黄色みを帯びる。えらの鰓耙(さいは)数も30~50本と少なく、消化管は短い。泥底の湖池沼や川の下流域に多く生息し、底生生物を主食とする。東日本産は全長15~20センチメートル程度であるが、西日本産は全長30センチメートルに達する。

 ギンブナ(銀鮒)は、沖縄を含む日本全国と東アジアに広く分布している。体高は中程度で体側は銀白色を帯びる。鰓耙数は40~60本ぐらいで、消化管もキンブナとゲンゴロウブナの中間の長さを示す。渓流域を除くあらゆる水域に生息し、やや藻類に偏った底生生物食である。全長約30センチメートルに達する。従来、西日本産は雌雄ほぼ同数とされていたが、これはキンブナをギンブナに誤認したためで、東西両日本ともギンブナには雄がほとんど、あるいはまったくみられない。ギンブナの卵にコイやドジョウの精子をかけると、処女生殖をおこしてギンブナの雌に成育するので、雌のみの生息地ではこのような処女生殖(雌性生殖という)で繁殖しているとみられる。

 ゲンゴロウブナ(源五郎鮒)は、日本産フナ類中体高がもっとも高い。消化管は長く、鰓耙は細長くて100~120本を数える。琵琶(びわ)湖沖合いの表層を群泳しながら、植物を主とするプランクトンを、その密生した鰓耙で濾過(ろか)して摂食する。琵琶湖特産であったが、大阪府河内(かわち)地方で、溜池(ためいけ)のような狭い水域でも成育しうるように品種改良された。この、いわゆるカワチブナヘラブナとして日本各地に第二次世界大戦前より移殖され、所によっては在来ブナとの雑種を生じている。

 ナガブナは、現在までのところ中部地方以西の本州で記録されている。形態だけでなく、所によって雄がほとんどあるいはまったくみられない点でもギンブナによく似ている。

 ニゴロブナは、琵琶湖特産で、日本産フナ類中体高がもっとも低い。

 キンブナ、ゲンゴロウブナ、ニゴロブナでは、雌雄がほぼ同数存在し、染色体も一般に二倍体である。これに対して雄の少ないギンブナとナガブナには、二倍体のほかに三倍体と四倍体の個体がかなり含まれている。

 ヘラブナあるいはヒラブナという俗称は、キンブナとの共存地ではギンブナに対しても使用されたが、近年は全国的にゲンゴロウブナ(カワチブナ)をさしている。また、マブナは一般にギンブナの呼び名であったが、近年はヘラブナ以外のフナの総称となっている。

 日本各地や朝鮮半島で発見されたテツギョ(鉄魚)は、各ひれ、とくに尾びれの著しく長い点で人目をひくが、フナとリュウキンの雑種とみなされている。また、鱗(うろこ)が透明化する突然変異個体は、カッタイブナ、ギョウキブナ(行基鮒)などとよばれる。これに対して、ゴマブナ(胡麻鮒)とデメブナ(出眼鮒)はそれぞれ寄生虫病と水質悪化によって生じた後天的な異常個体であって、遺伝的な変異ではない。

[水野信彦]

養殖

古代からの重要な食用魚で、中国をはじめ世界各国で養殖されている。日本では遊漁の対象として、とくにヘラブナの養殖が盛んで、その種苗は全国各地で放流されているほか、成魚が釣り堀にも出荷されている。

[水野信彦]

釣り

釣り人はキンブナ・ギンブナをマブナ、ゲンゴロウブナ(カワチブナ)をヘラブナとよび、フナ釣りをマブナ釣りとヘラブナ釣りに区別する。マブナ釣りとヘラブナ釣りでは、竿(さお)、ウキ、仕掛け、餌(えさ)などがまったく異なる。

[松田年雄]

マブナ釣り

マブナは、春の産卵期を乗っ込み期とよび、水郷地帯の浅場の細流に移動してきたのを短竿でねらう。また、大場所、たとえば霞ヶ浦(かすみがうら)のような所では、湖岸に密生するアシの根元に接岸してくるのを釣る。このときは6~7メートル級の振り出し竿に、仕掛け全長は1.5メートルから1.8メートルと短くする。ポイントの真上から静かに仕掛けを沈め、魚がかかったら一気に抜き上げ、このあと魚に手が届くまで竿を縮める。この釣り方をズキ釣りとよぶ。

 秋や初冬は探り釣り。3.6~4.5メートル竿に小さい玉ウキ5、6個をつけたシモリ仕掛けで、まめに歩いて釣る。ウキの半数がゆっくりと底に沈むようにオモリを調節するのがこつである。

 真冬の寒ブナや乗っ込み前の巣離れとよぶ季節は、6~7メートル竿で沖めいっぱいに仕掛けを振って探るか、スピニング・リールの軟調磯竿(いそざお)などで釣るが、この釣り方はどちらも引き釣りとよぶ。餌は寒い時期にアカムシ、暖かいときはミミズが有効である。

[松田年雄]

ヘラブナ釣り

ヘラブナは、釣り堀、管理釣り場、自然の釣り場で四季を通じて楽しめる。竿はヘラブナ専用のもので、釣り場に応じて2.4メートル級から6メートル級を使い分ける。竿掛け、竿受け、釣った魚を取り込む玉網、釣れた魚を入れるフラシ(魚籃(びく))、クジャクの羽などでつくったヘラブナ専用ウキなど、ヘラブナ釣りには欠かせない道具が多い。また、餌箱、椅子(いす)など腰をかける道具も必需品である。

 餌はマッシュポテトのほか、練り餌用の各種の粉製品が市販されているが、べテランは季節や釣り場の状況に応じて自分なりにブレンドしてくふうをしている。

 ヘラブナの泳層は本来は中層(釣り人は宙層という)であるが、季節や水色などによってマブナ同様に底層になることもあり、この傾向は冬に多い。初夏から11月ごろまで魚の多い所では上層で釣れるが、基本は宙釣りである。群泳する習性をもつ魚であるため、上鉤(うわばり)に溶解の早い寄せ餌をつけ、まず「魚を寄せて釣れ」というのが第一条件である。

[松田年雄]

食品

フナは日本全土に分布し、古くから身近な魚として親しまれている。縄文遺跡からフナの骨が出土しているとの報告もある。フナには淡水魚特有のにおいがある。調理の際はこのにおいを消すような処理や食べ方が古くからくふうされている。甘露煮などのように煮る場合は、いったん素焼きにしたものを用いたり、矯臭効果のあるみそを用いると臭みが消える。また、味付けを濃厚にするのもよい。料理としては、洗い、刺身、酢みそ和(あ)え、昆布(こぶ)巻き、甘露煮、すずめ焼き、つけ焼きなど利用の幅が広い。しかし生食の場合は、寄生虫の心配があるので、汚れた水にいたものは注意がいる。

 フナは各地に郷土料理が多い。岐阜県の鮒みそは、素焼きしたフナを大豆とともにみそで柔らかく煮込んだものである。香川県の鮒豆は、素焼きのフナに大豆と昆布を加え、砂糖としょうゆでじっくり煮込んだもの。フナのてっぱいは、フナを塩で磨いて3枚におろし、塩と酢でしめたあと小さく切り、ダイコンのたんざく切り、ネギの小口切り、赤唐辛子などと白みその酢みそで和えたものである。石川県のフナのそろばんはフナの刺身のことで、からし酢みそやしょうゆで食べる。小ぶりのフナを薄い筒切りにすると、中骨がそろばんの玉の穴のようにみえるのでこの名があるという。千葉県もフナ料理が多く、すずめ焼き、甘露煮などは有名である。滋賀県では、琵琶(びわ)湖のゲンゴロウブナ、ニゴロブナを用いたなれずしの一種である鮒ずしが古くから知られている。

[河野友美・大滝 緑]

民俗

恵比須(えびす)神にはタイがもっともふさわしいが、恵比須祭にフナを供える例は、名古屋市の熱田(あつた)神宮の末社や、佐賀県鹿島(かしま)市、茨城県真壁(まかべ)郡、静岡県磐田(いわた)市などの各地でみられる。タイを調達できない地方では、タイと体形が似て、寒い時期でもまとめてとれやすいフナを用いたのであろう。伊勢(いせ)神宮(三重県)の御神宝の太刀(たち)には、2尾の金の鮒(ふな)形がつけられている。『宇治拾遺(うじしゅうい)物語』には、壬申(じんしん)の乱(672)で十市皇女(とおちのひめみこ)が父の大海人皇子(おおあまのおうじ)に危険を知らせるため、フナの腹中に密書を入れて届けた話がある。また、ぶつぶつ小声でいうことを「鮒の念仏」といい、諺(ことわざ)にも登場している。

[矢野憲一]

『矢野憲一著『魚の文化史』(1983・講談社)』『中村淳一著『北のヘラブナ釣り入門』(2000・北海道新聞社)』『葛飾区郷土と天文の博物館編・刊『鮒と鯉――低湿地のくらしと温水魚』(2002)』


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