神に召し上がり物として供える飲食物。ミケともいう。ミケは御食の義で、神酒はミキという。神饌は米、酒、塩、水が基本で、これに野菜、果物、魚貝類などもいっしょに供える。毎朝夕、神饌を供えることを日供(にっく)という。祭りのときは、より多くの品目の神饌を供する。明治以降、神饌は生物(なまもの)を供えるようになった(生饌)が、もとはわれわれ人間が実際に飲食できるように調理して供えた(熟饌)ものである。現行の神社祭祀(さいし)における神饌の品目は、これを供する順に記すと、和稲(にぎしね)(籾殻(もみがら)をとった米)、荒稲(あらしね)(籾殻のついた米)、酒、餅(もち)、海魚、川魚、野鳥、水鳥、海藻、野菜、果物、菓子、塩、水と定められている。これを供えるには、三方(さんぼう)または高坏(たかつき)に盛り、案(机)上に奉る。その台数は祭祀の大小によって異なる。明治以前からの調理法が継承され、今日、特殊神饌といわれるものには、伊勢(いせ)の神宮における神饌をはじめ、春日(かすが)大社(奈良)の春日祭、下鴨(しもがも)・上賀茂(かみがも)神社(京都)の賀茂祭(葵(あおい)祭)、石清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう)(京都)の石清水祭、その他の神饌がある。これらによると、米は飯として供え、飯には粟(あわ)の飯もある。酒は清酒も用いるが、特殊な醸造による白酒(しろき)・黒酒(くろき)という濁(にごり)酒もある。餅は鏡餅といって、円形の丸餅が多いが、切り餅や粟餅などもある。また、魚貝類には鮑(あわび)、栄螺(さざえ)、煎海鼠(いりこ)などの品目もある。また、調味料としての滓醤(ひしお)や箸(はし)も耳土器(みみどき)(箸台)の上に置いて供えられる。なお、『延喜式(えんぎしき)』には平安時代の神饌品目が記されている。これらの神饌は、栄養価やカロリーの高いものが多く、また、その品目も多いことから、バランスのとれた日本食といえる。
[沼部春友]
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御食(みけ)とも。神に供える酒食。古代以来,神の降臨を願い,もてなし,共食を行うという,祭の本質を担う性格をもっていた。祭の性格により神饌の種類も異なったが,基本的には稲・豆・野菜などの農産物,ほかに魚介類・鳥・海草・果実などの山野河海の収穫物,酒・塩などの生活に密着したものが供えられた。明治期以降,祭式の決定により画一化。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…饗はもてなす酒食のことで,供物,神饌である。お饗盛りはその神饌を調理・調製し,盛り付けることである。…
…《延喜大膳式》の〈諸国貢進菓子〉の条を見ると,山城国のムベ,アケビ,イチゴ,ヤマモモ,平栗にはじまり,れんこんなどをも含めてさまざまな種類の名を見ることができる。それらの菓子は饗膳(きようぜん)の献立の一部をも構成したもので,その遺制はいまも諸社の神饌(しんせん)に見ることができる。神饌にはほかに唐菓子が同じように大きな比重をもっている。…
…神仏に供えるもの。神に供えるものを神饌,仏に供えるものを一般に仏供という。神饌はまたミケという。…
…神祭に際して,神に捧げた神饌(しんせん)をおろして司祭者や氏子のおもなものが神前で相嘗(あいなめ)すること。新嘗や大嘗の嘗の字の古訓が〈ナフライ〉〈ナムライ〉であり,直会は〈ナフリアイ〉〈ナムリアイ〉で神と人とが共食することである。…
※「神饌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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