タコ(英語表記)octopus

翻訳|octopus

改訂新版 世界大百科事典 「タコ」の意味・わかりやすい解説

タコ (蛸/章魚)
octopus

頭足綱八腕形目Octobrachiataに属する軟体動物の総称。潮間帯から深海帯まで分布し,マダコ科を中心に世界におよそ200~250種くらいすむと思われているが,分類の形質となる硬い組織に乏しいため分類が確立しておらず,確実な種数はつかめていない。日本近海には30~40種前後のタコが分布している。

体は一般に筋肉質に富んでいるが,浮遊性あるいは深海性の種は柔軟で,あるものは寒天様である。体は,胴,頭,腕(足)の3部分からなる。外套(がいとう)膜は後端が丸い袋状で,その中には内臓がある。外套膜と内臓塊の間が外套腔で,そこに1対のえらがある。筋肉質の小さいひれを1対もつもの(有鰭(ゆうき)類=有触毛類)とひれをもたないもの(無鰭類=無触毛類)とがある。頭部には1対の大きな眼をもち,腹側には漏斗(ろうと)がある。漏斗は一種の総排出口で呼吸に用いられた水,排泄物,生殖物質,墨汁などがここを通って排出される。頭部との境は腹部に狭い開口があり外套腔に通ずる。腕は8本(4対)からなっていて,伸縮自在でほぼ同形。腕の口側には,1~2列の吸盤が並ぶ。吸盤はイカ類のものと異なり,筋肉のみからできていて,キチン質の環はない。有鰭類では,吸盤の列の外側に短い筋肉質の触毛列がある。タコ類の腕と腕との間は広いスカート状の傘膜(さんまく)になっている。腕の環の中央には俗に〈からすとんび〉といわれる大きくて鋭い顎板(がくばん)からなる口器があり,口腔内には歯舌(しぜつ)をもつ。

タコはすべて雌雄異体で,雄は右または種によっては左の第3腕が,精莢(せいきよう)(精子を包むふくろ)を雌の外套腔に挿入する役をする交接腕に変形していて,先端は舌状ないしは葉状になっていて,対の腕より短いのがふつうである。アミダコ科やフネダコ科では雄は雌の1/20くらいの大きさしかない矮小雄(わいしようゆう)であるが,交接腕は長大で,先端がむち状になっており,精莢を渡すための交接に際しては交接腕は切れて雌の体内に残る。アミダコのこれを発見した近世の博物学者キュビエが,これをタコの外套腔内に宿る寄生虫と誤り,Hectocotylus octopodisと命名(1829)したところから,頭足類の交接腕を現代でもヘクトコチルスhectocotylusと呼ぶ。卵は通常柄についた卵囊に入れて産み出される。底生性のものはこれを海底や物などに産みつけ,フネダコ(タコブネ)類は雌の特殊化した第一腕から分泌した舟形の貝殻にいれる。深海性のある種では雌が傘膜内に抱きかかえその間は餌をとらない。マダコなどは海底や物に産みつけた卵に新鮮な水を吹きかけたり,ブラッシングをしたりし,孵化(ふか)まで餌をとることなくついには餓死する。

 餌はおもに甲殻類であるが,他の軟体類(貝類)なども好む。タコの唾液腺にはこれらの餌を殺す,チラミンtyramineなどの毒を含み,なかでも熱帯太平洋に分布するヒョウモンダコは毒性が強い。人を攻撃することはないが,ときにはいたずらをしていてかまれた人が死ぬことがある。敵におそわれると墨汁囊から墨を吐く。タコの墨は,イカの墨が粘稠(ねんちゆう)性があり,自己の擬似像をつくり襲撃者の目をそらせるのに比べ,煙幕としての役をするらしいが,水槽内などでおびただしい量を吐き出すと弱ってしまう。深海性の種には墨汁囊はない。

 底生性タコ類は,体を環境に似せて瞬時にして色を変えるのみならず,体の凸凹や彫刻まで変化させる。これは眼による測定が確かなことを示している。神経支配によるこの体色変化は何段階かの相変化の過程をとる。また,吸盤には化学受容能と触覚能とがあり,簡単な型の記憶ができる。タコの学習についてはこのほか,条件反射による実験も行われ,無脊椎動物としてはきわめて高い〈知能〉を有するとされている。

タコ類は大別して有鰭類Cirrata(有触毛類)と無鰭類Incirrata(無触毛類)の2亜目に分けられる。前者はおおむね中層浮遊性で,肉ひれと触毛を有している。一般の目にふれることはまれな種が多いが,なかでもメンダコは,体が前後に押しつぶされたような奇妙な形のタコで,傘膜が広く,腕の遊離部分が短いためまるで円板状で,内臓囊も低く,水深100~1500mくらいの海底に近い中層を傘膜とひれをあおって静かに遊泳しているらしい。同様の体型をもつもので,日本近海にいるものではほかにセンベイダコオオメンダコなどが知られる。

 一般になじみのあるタコは後者に属するタコで,肉ひれを欠き,腕に触毛もない。この中でも浮遊生活者と底生生活者がある。浮遊生活するものの中にはナツメダコ,クラゲダコのように体がほとんど寒天質で運動性の弱いものもあるが,アミダコ,ムラサキダコ,アオイガイカイダコ),タコブネ(フネダコ)のように比較的筋肉質の表層遊泳性のものもある。アミダコ,ムラサキダコおよびフネダコ科は前述のように極端な雌雄二型現象を示し,フネダコ科の雌は卵保育用の貝殻をつくる。これらはときに海流などにより海岸に漂着する。底生生活者はマダコ科で,マダコイイダコテナガダコミズダコなどの水産上有用な種を含んでいる。最小の種は日本を含む熱帯西太平洋にすむマメダコで全長14cm(外套長2.5cm),最大種は同じく日本を含む亜寒帯北太平洋一円に分布するミズダコで,全長3m(外套長25cm)に達する。底生種は一般に筋肉質で,とくに岩礁性のマダコなどは筋肉が強く,水からあげても歩行ができるほどである。熱帯太平洋にすむシマダコやワモンダコは腕などに虹色胞(こうしよくほう)などからなる反射光の強い組織をもつので,一見発光するように思われているが,現在までタコの仲間で発光するものは知られていない。

 底生性のタコ類は夜行性で,昼は穴に潜み夜外に出て餌をあさる。餌は巣穴にもち帰るか,または手近な穴に身を隠すかして食べる。この性質を利用した漁法が蛸壺で,タコの好みそうな容積をもつ入れ物をはえなわ式に海底に敷設する。以前は素焼きのつぼを用いたので〈蛸壺〉とか〈蛸がめ〉といわれたが,今はセメント製のものを用い,中にカニを餌としてつるしたり,タコが入るとふたの閉まるようなものさえある。小型のイイダコには小型のつぼや,アカニシなどの貝殻を利用したものを用いる。また,大型のミズダコには〈蛸箱〉と呼ばれる箱を用いる。このほか,砂泥底にすむタコはトロールなどの網漁具でもとられ,また〈空釣り(からづり)〉といって一種の擬餌針で釣る方法も行われている。日本では年間およそ5万tの漁獲量がある。
執筆者:

タコは《出雲国風土記》に名が見える。《延喜式》には隠岐,讃岐,肥後から〈乾鮹〉や〈鮹腊〉が貢納されたことが見え,ほかに〈貝鮹鮨〉という名も見える。乾蛸はもちろん干物であるが,腊(きたい)も丸干しなので,乾蛸と蛸腊の違いははっきりしない。貝蛸鮨はイイダコのなれずしである。平安以後,饗膳の献立にしばしば焼蛸というのが登場するが,これは日本最古の料理書とされる《厨事類記》によると,タコを石焼きにして干したもので削って食べるものであった。近世初頭の《料理物語》には,タコの料理として桜煎(さくらいり),駿河煮,なます,かまぼこの名が挙げられている。桜煎は足を薄切りにし,だし汁でうすめたたまりで煮るもので,のちには桜煮と呼んだ。駿河煮はタコをよく洗って,そのまま桜煎と同じように〈だしたまり〉に酢を加え,いぼが抜けるほどよく煮込むとされている。なますは酢ダコであるが,タコのかまぼこは珍しく,ほかには見られないようである。タコの卵巣は〈藤の花〉と呼ばれた。白い小さな卵粒の連なっているさまがフジの花房に似ているための名で,わん種や酢の物にして珍重される海藤花(かいとうげ)はその塩蔵品である。
執筆者:

イカと全形が類似して吸盤をそなえた8本の足があり,丸くて頭とみなされる腹部をもつ点で,一種奇怪な擬人的生物としての感覚を起こさせるようで,漫画などでしばしばタコ坊主などとして扱われるほか,禿頭(とくとう)の人とか赤褐色の外皮から酔漢を連想させるあだなにもなっている。巨大なタコは伝説化して人をとる怪物のようにも伝えられた。また,蛇が海中に入ったものが変じて7本足のタコとなり人を襲うなどとも語られ,北陸海岸から北日本にかけてこの種の怪異談が伝えられている。また,タコはサトイモを食うことを好み,海岸の砂畠に栽培するイモを,6本の足を使って立って陸上を歩み,他の2本の足で土を掘ってイモを取っていくなどとも語られた。これは芋とタコとを煮たものが美味なところから生まれた戯話ではないかと考えられるが,近世の随筆や奇譚におりおり扱われた話題である。タコは飢えると自分の足を食って生き続けるという説もあって,利益が上がらず財産を処分しながら配当を続ける会社の行為を蛸配当などともいう。蛸壺の中にとじこもる性質などから連想された行動かもしれない。タコは形ににあわず美味なところから,これを食うことを禁じて自己の謹慎する誠意を示す意味で,タコを描いた絵馬を奉納して病気の治癒を祈願する風習があり,京都の蛸薬師はもと永福寺本尊で,現在は中京区の妙心寺本尊となっているが,薬師信仰としての治病祈願に,婦人病,小児病の治癒のためタコを禁ずるといって祈願するので名高い。形から妊婦がタコを食べると生まれた子がいぼができるとか,骨なしになるといって,妊婦の食物としては与えないようにすることも俗信として行われる。さらに子どもの夜泣きを止めるまじないとして薬師や地蔵に,タコの絵馬を奉納する例も各地に知られている。
蛸壺
執筆者: タコが自分の触腕を食べ,しかも食べた触手は再生するという俗信は,すでに大プリニウスの《博物誌》にも述べられている。そのためキリスト教世界では守銭奴の象徴となった。これは,交尾期に生殖器の役を果たす雄の触腕が雌の外套腔に挿入される現象から生じた説と思われる。タコは近づく魚を引き寄せて捕食するので,誘惑者や裏切り者,あるいは悪魔と同一視され,devilfishの名が一般化している。西洋では古くから海の怪物の伝説が存在したが,タコも《オデュッセイア》に語られる12本足と6頭の怪物スキュラSkyllaなどと混同された。さらに19世紀初めに博物学者ドニ・モンフォールPierre Denys-Montfortは,船を海中に引きずり込むという怪物クラーケンの正体を大ダコと断定し,〈地上で最大の凶暴な生物〉という恐しいイメージを定着させた。ユゴーはこれにヒントを得,《海で働く人々》(1866)で人間を襲うタコを描き,J.ベルヌやH.G.ウェルズも怪物としてのタコのイメージを作品に盛り込んでいる。吸盤や触腕の形からタコを好色のシンボルとみなすことも古来行われ,タコの肉は催淫作用をもつと信じられた。なお,タコを表す英語octopusなどは,ギリシア語oktōとpousの合成に由来し,原義は〈8本足〉である。
執筆者:



たこ

胝腫(べんちしゆ)tylosisとも呼ばれる。皮膚の小範囲に限局した角質の肥厚,増殖で,靴があたるなどといった長期間にわたって反復する圧迫や摩擦などの機械的刺激によって生ずる。一種の生体の防御反応である。一般に角質が楔状に皮膚に杭を打ち込んだようになっており,まわりの皮膚がこれをとりかこんで魚の目に似るものを〈魚の目〉といい,〈ペンだこ〉〈座りだこ〉〈靴ずれだこ〉などのように局面状のものをたこと呼ぶが,両者は本質的には同じものである。かかとや手足の指にできることが多いが,スポーツ選手や職業によっては手掌やひじなどにみられることもある。圧痛があれば,かみそりで削ったり,スピール膏などのサリチル酸剤をはって,軟らかくしてから削るが,いずれは再発する。刺激をさけるようにくふうすることもたいせつである。たこは切除しても,反復刺激が加われば,同じ場所に再発し,瘢痕(はんこん)が硬くなって,かえって痛みが強くなることがあるので,切除しないほうがよい。足の裏のウイルス性のいぼは,つねに踏みつけられて盛り上がらず,魚の目ないしはたこと同じ外観を呈するので,区別して治療する必要がある。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「タコ」の意味・わかりやすい解説

タコ
たこ / 蛸

章魚
octopus
devil fish

軟体動物門頭足綱八腕形目に属する動物の総称。

形態

この目Octopodaの仲間の体は柔らかく、一見頭のようにみえる丸い外套(がいとう)膜の袋は胴で、この中に心臓、肝臓、消化管、生殖巣などの内臓が収まっている。本来の頭部は目のあるところで、この中には軟骨の頭蓋(とうがい)に収まった脳がある。外套膜の腹側はすこし切れ込んでいて、ここに漏斗(ろうと)とよばれる総排出口がある。呼吸用の水は、外套の切れ込みから外套腔(こう)中に取り入れられ、そこにある1対のえらを洗う。漏斗からは不要になった水のほか、糞(ふん)や、墨汁あるいは生殖物質を出す。4対に分かれた筋肉質の腕が頭から直接生え、その腕の環に囲まれて口が開いている。口には背腹2片に分かれた俗にからすとんびとよばれる顎板(がくばん)があり、口腔内には歯舌がある。また、唾液腺(だえきせん)も開いていて、餌(えさ)の捕食に必要なチラミンなどの毒を含む。消化管には嗉嚢(そのう)、胃があり、さらに腸に続くが、腸は体の後方でU字を描き、直腸、肛門(こうもん)は前方を向いて開く。腕には、多くの種では2列、一部のものは1列の吸盤が全長に並ぶ。腕と腕との間にはスカート状の傘膜があり、腕どうしの長さの関係とともに、傘膜の深さも分類形質として用いられる。

[奥谷喬司]

分類

八腕形類は大きく次の2群に分けられる。(1)有触毛類(有鰭類(ゆうきるい))Cirrata 体の後方に小さい1対の肉ひれをもつのが普通で、腕の吸盤は1列または2列で、それに沿って細い筋肉質の糸状の触毛列がある。傘膜は広く体は寒天質で、浮遊生活をしているものが多く、代表的なものはメンダコOpisthoteuthis depressa、メクラダコCirrothauma murrayiなどで、中・深層性の希種が多い。(2)無触毛類(無鰭類)Incirrata 肉ひれをもたず、腕吸盤列に沿う触毛列はない。マダコ科で代表されるような筋肉に富んだ底生性種が多く、一部のものは海表面近くに浮遊する。アオイガイArgonauta argo、ムラサキダコTremoctopus violaceus、アミダコOcythoe tuberculataなどがある。

[奥谷喬司]

生態

タコ類はすべて雌雄異体で、交接に際して雄は交接腕で精莢(せいきょう)を雌に渡す。このとき、アオイガイ、ムラサキダコ、アミダコなどでは、精莢を担った交接腕の先端が切れて雌の体内に残る。これをキュビエが寄生虫と誤認してヘクトコチルスHectocotylus(百疣虫(ひゃくいぼちゅう))と命名したことから、頭足類の交接腕はこの名でよばれている。しかし、他のタコの交接腕はこのように切離することはない。卵は通常、柄(え)をもっていて、底生性のものでは海底の岩盤などの地物に産み付けられるが、浮遊性のものでは、ムラサキダコのように浮遊卵塊となったり、アオイガイのように雌が分泌した殻内で保護されたり、あるいは雌の傘膜中に抱えられていたりする。孵化(ふか)幼生は親のミニチュアで、すでに吸盤をもち、浮遊している。しかし、一部の種では孵化直後から海底をはう。表皮には色素胞が分布していて、これを収縮拡大させ体色を変えるのみか、とくに底生種では体の凹凸まで変化させることができる。敵に襲われると、直腸の近傍にある墨汁嚢からインキを吐き、煙幕的効果によって姿をくらます。暗黒の深海にすむチヒロダコ類Benthoctopusは墨汁嚢を欠く。また、イカのように発達した発光器をもつものや、インキのかわりに発光液を吐くものはないが、淡いリン光を発するシマダコCallistoctopus arakawaiや表層性の一種が発光する。タコは、いずれの種も甲殻類を好み、底生性の種はカニ、エビなどを襲う。マダコが増えるとエビの資源量が減るため、イギリスではタコの異常増殖をoctopus plague(plagueは悪疫の意)とさえよぶ。底生種はまた二枚貝なども餌とするが、摂餌(せつじ)活動はもっぱら夜間に行い、日中は巣穴に潜む。

[奥谷喬司]

漁業

日本近海にはおよそ50種のタコ類が分布し、そのうち、南西半分ではマダコOctopus vulgaris、イイダコO. ocellatus、テナガダコO. minorを、東北半分ではミズダコParoctopus dofleiniヤナギダコO. conaspadiceusエゾクモダコO. arachnoidesをおもな漁業対象としている。わが国のタコ類漁獲量は数万トンで、半分はたこ壺(つぼ)などのトラップ(わな)漁業によっており、残り半分は底引網、釣りなどでとられ、遠洋漁業ではもっぱらトロールによる。

[奥谷喬司]

食品

日本ではよく食されているが、外国ではメキシコ、イタリア、スペイン、ギリシアなど一部の地方を除き食用の習慣はない。タコは筋肉が堅く、腐敗しても判別がむずかしいので注意が必要である。生きているものは、触ると縮むもの、吸盤に弾力があって吸い付くものが新しい。ゆでたものでは、皮のはがれやすいのは古いものである。ごく新鮮なものは生のまま刺身にすることもあるが、普通はゆでてから用いる。ゆでるときは内臓を取り除き、塩を多量にふってよくもみ、ぬめりをとったあと水でよく洗う。これをたっぷりの湯で赤くなるまでゆでる。ゆでるとき、番茶の煮出し汁を用いると赤い色が安定する。日本産のものは、堅いが味がある。一方、大西洋などで産したものは、身が柔らかい。すしの種、刺身、酢だこのほか、酢みそ、からし酢みそで和(あ)えたり、煮物、おでんの種などに用いられる。加工品では、生干し、干しだこ、薫製、削りだこなどがある。マダコの卵塊は白い藤(ふじ)の花のようなので海藤花(かいとうげ)とよばれる。これは吸い物、煮物、三杯酢などにする。

 愛媛県今津地方にはたこ飯とよばれる郷土料理がある。タコは塩でもみ洗いしてぬめりを除き、出刃包丁の背でたたいて柔らかくし細かく切る。これを米と混ぜ、しょうゆ、塩、酒で調味して炊く。ゴボウ、ニンジンなどの野菜を混ぜることもある。

[河野友美]

民俗

タコは西洋ではデビル・フィッシュ(悪魔の魚)といわれているが、日本では人間に好意的な、賢くていたずら好きとイメージされる。薬師如来(やくしにょらい)が海上をタコに乗ってやってきたという伝説の蛸(たこ)薬師は、京都市や東京都目黒区など各地に存在しており、大阪府岸和田市などには、タコを禁食して祈れば眼病や吹き出物、いぼなどに霊験があるという蛸地蔵もある。また愛知県知多(ちた)郡の日間賀(ひまが)島では、毎年1月に蛸祭が行われるが、「タコ木」とよばれる木を沖へ流してタコを釣るしぐさをし、大漁祈願をする。このほか関西地方では、半夏生(はんげしょう)に「半夏蛸」といってタコを食べる風習があり、これは、タコのように大地に吸い付いて、その足のようにイネの広がるのを祝う縁起とされる。怪物的なタコの伝説は、西洋のクラーケンをはじめ、富山県の大ダコが牛馬を襲って食べる話(日本山海名産図会)など各地にあるが、タコがイモ掘りをするとか、新墓を掘り荒らすというような伝説もある。三重県鳥羽(とば)市の畔蛸(あだこ)町は、中秋の名月の夜、タコが田の畔(あぜ)にたくさん上ってきたためにつけられた地名だとされる。

[矢野憲一]

『ロジェ・カイヨワ著、塚崎幹夫訳『蛸』(1975・中央公論社)』『井上喜平治著『蛸の国』(1977・関西のつり社)』



たこ

胼胝腫(べんちしゅ)の俗称で、限局性の角質肥厚をさす。長期間にわたって圧迫や摩擦などの外的刺激を繰り返し受ける部位に、皮膚の防御反応として生ずる。通常は黄褐色調の硬い角板で、表面は平滑または多少ざらざらしている。ときに圧痛を訴えることがある。ある種の職業で特定の部位にできるもの(畳職人の肘(ひじ)だこなど)をはじめ、いわゆるペンだこ、座りだこ、靴ずれだこなどがその例である。治療は、原因を避けその部位に外力を加えないことが先決であるが、対症療法としてはスピール膏(こう)やピック膏などを貼(は)る。

[水谷ひろみ]

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食の医学館 「タコ」の解説

タコ

《栄養と働き》


 西欧ではタコをデビルフィッシュ(悪魔の魚)と呼び、ほとんど食用にしません。例外としてイタリア、ギリシャ、スペインでは食べます。日本では弥生時代の遺跡からタコ壺(つぼ)が出土しており、古くから食べていたことがわかります。
 タコは世界中に生息していますが、日本近海でとれるのはマダコ、ミズダコ、テナガダコ、イイダコなど60種ほどです。
 タコは、頭のようにみえる楕円形(だえんけい)の袋が胴で、頭は足の上で目のあたりになります。
○栄養成分としての働き
 タコの特徴は、タウリンをたっぷり含んでいることです。
 タウリンは、魚介類に多い成分で、血圧やコレステロール値を下げるので高血圧や血管障害(脳卒中(のうそっちゅう)、心臓病など)を防ぐほか、肝機能を高めて解毒作用を強化するので、コレステロールが原因となる胆石症(たんせきしょう)などによる各症状を改善します。また視力低下の予防や、神経系の改善にも一役かいます。
〈ナイアシン、ビタミンEが血行を促進する〉
 ビタミンB2やナイアシン、ビタミンEも含んでいます。
 B2は、脂質や糖質の代謝をうながし、粘膜(ねんまく)や皮膚、髪、爪などのトラブルを防ぎます。口内炎(こうないえん)、口角炎(こうかくえん)、肌荒れ、目の充血などの症状に効果的です。
 ナイアシンは、糖質や脂質の代謝をし、脳神経の働きを助け、血行をよくするので、食欲減退、不安感、冷え症、頭痛、二日酔いなどを改善します。
 Eは、細胞膜、生体膜を活性酸素からまもるので、心臓病や脳梗塞(のうこうそく)、がんの予防に役立ちます。また血行をよくするので、血行障害からくる肩こり、頭痛、痔(じ)、しもやけ、冷え症の改善にも役立ちます。
 ミネラルに目を移すと、味覚障害を防ぎ、血液の循環をよくする亜鉛(あえん)や鉄、銅、マグネシウムなどを含んでいます。

《調理のポイント》


 旬(しゅん)は、種類によって異なり、ミズダコが初夏、マダコが夏、イイダコは冬から春、テナガダコは春から秋です。
 鮮度は、マダコでいえば色が黒く、くるくる足がきれいに巻いているものが良質。また、吸盤が吸いついてくるものなら最高です。
 調理の際は、ていねいに塩もみしてぬめりをとり、頭を裏返して墨袋を破らないようにして取り出してからもとにもどします。鍋にダイコンおろしを入れ20~30分ゆでると、やわらかく煮えます。ただし、一般にスーパーや魚屋さんに並んでいるものは、ゆでダコですから、そのまま水洗いして食べられます。
 新鮮なら、刺身やたこしゃぶに、ゆでるなら、寿司ダネ、酢のもの、やわらか煮に適しています。
○注意すべきこと
 タコは食べすぎるとかゆみがでることがあるので、過敏体質の人は注意が必要です。
 また、腐敗したタコを食べると、腸炎ビブリオなどによる食中毒を起こす可能性もあります。
 なお、スーパーなどで販売されているタコの刺身は、色をよくする添加物が使われていることがあるので、気になる人は表示をよくチェックしてください。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タコ」の意味・わかりやすい解説

タコ
Octopoda; octopus; devil fish

軟体動物門頭足綱八腕形目の動物の総称。イカ (十腕形類) に比べ,触腕を欠くので腕は8本のみで,吸盤には柄がない。また,俗に頭といわれている胴の部分には鰭がなく,背面に甲をもたない点でイカ類と異なる。体は胴,頭,腕の3部から成る。胴は肉質で丸みがあって,その中に内臓嚢があり,腹面に開く外套腔には1対の鰓がある。外套腔の出口には腔内の水を噴出する漏斗がある。頭の左右には大きな眼があり,8本の腕にはそれぞれ吸盤が1~2列並んでおり,これを使って岩上を運動したり餌を捕えたりする。また腕に囲まれて口があり,鋭い上下顎板 (からすとんびと呼ばれる) で貝類,甲殻類を噛み砕き,下ろし金状の歯舌でかきとって食べる。内臓は食道から 嗉嚢,胃となり,ここに肝臓が開く。さらに腸を経て肛門が外套腔内に開くが,ここに墨汁嚢も開いている。食道を囲んで脳が発達し,軟骨がこれらを保護している。雌雄異体で,通常雄の右第3腕の先端が交接の際,精莢を保持するため舌状・スプーン状に変形する。産卵期は夏が多く,卵嚢を岩などに産みつける。すべて海産で,岩磯の裂け目,砂底に穴をつくって入っているが,クラゲダコのように浮遊性の種もある。日本近海に約 60種が知られており,漁業上重要な種にマダコ (ときにこれを単にタコということもある) ,イイダコ,テナガダコ,ミズダコなどがある。

たこ

胼胝」のページをご覧ください。

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家庭医学館 「タコ」の解説

たこべんちしゅ【たこ(胼胝腫) Tylosis】

[どんな病気か]
 皮膚の表面にある角質(かくしつ)が部分的に厚く、硬くなったものを、たこといいます。
 足の甲(こう)にできるすわりだこは正座の習慣を長く続けた中年以上の女性によくみられます。
 力をこめて字を書く人の中指や人差し指にはペンだこが、赤ちゃんの指にはときにしゃぶりだこができます。スポーツ選手の手足の指などにも、血マメをくり返しているうちに、りっぱなたこができます。
 このように、物理的な刺激をしじゅう受ける部位で、皮膚を守るために角質が厚くなったものが、たこと考えてよいでしょう。
 ただ、体質的にたこができやすい人もいます。お年寄りや更年期の女性、糖尿病のように血行が悪くなる病気の人などがそうで、遺伝病によってひどいたこが何か所もできる人もまれにいます。
[治療]
 たこは痛みがないため、放置しておいてもかまいませんが、わずらわしければ削ります。長めに入浴して角質を十分にふやけさせてから、軽石(かるいし)でこすりとるか、安全カミソリで薄くそぎ落としたりします。カミソリを使うときは、出血しないように気をつけなければいけません。特殊なたこ削り器も市販されていますが、皮膚科を受診すれば削ってくれます。
 角質軟化のため、サリチル酸硬膏(こうこう)(俗にいう「たこの吸い出し」)を3~4日テープで貼(は)り続けておくと、さらに削りやすくなります。

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百科事典マイペディア 「タコ」の意味・わかりやすい解説

たこ(凧)【たこ】

風圧を利用し,糸をつけて空中に飛揚させる紙張りの玩具(がんぐ)。竹や木の骨で長方形,ひし形,奴(やっこ)形などに作り,表面に絵や文字をかく。とんびだこ,飛行機だこなどの形もあり,名称も京阪地方の〈いか〉,長崎の〈はた〉などさまざまで,また英語では〈トビ〉を意味するカイトkiteなど,空を飛ぶものを表す名称が多い。日本には中国から渡来,江戸時代以後正月の遊びなどとして続いている。遊びとしてのたこ揚げが盛んになるのは17世紀に入ってからである。まず,大坂(大阪)ではやりはじめたたこ揚げは,すぐに江戸に伝わり,禁止令が出るほど流行した。たこを正月に揚げるのは江戸の風習で,藪(やぶ)入りの日であった1月15,16日。大坂では2月初午の日が中心。こんにちでも,長崎は4月,浜松は5月,白根(新潟県)は6月,沖縄は10月にたこ揚げが行われている。ヨーロッパでは〈ボックスカイト〉と呼ばれる立体形のたこが発達している。また,米国で開発された〈ゲイラカイト〉が1975年に日本に輸入され,人気を呼んだ。こんにちでは〈スポーツ・カイト〉による競技会も開催されている。

タコ(蛸/章魚)【タコ】

軟体動物頭足綱のうち,現生では八腕形目,コウモリダコ目を総称。体後部に鰭(ひれ)がなく,また触腕もない。外套(がいとう)膜の縁はイカ類のように開かずほとんど閉じている。えらは1対。腕の吸盤は2列のものが多い。吸盤は肉質で,疲労するとすぐ表面が剥離(はくり)する。日本近海には約40種いるとされる。すべて海産で,カイダコ,アミダコのように海面に浮遊するもの,マダコのように比較的沿岸にすむもの,チヒロダコ,クロダコのように数百〜数千mの深海にすむものなどがある。マダコ,ミズダコイイダコなどタコ類は,世界で年間約25〜35万tの漁獲があり,水産上重要。
→関連項目蛸壺

たこ

胼胝腫(べんちしゅ)とも。皮膚に機械的刺激や圧迫が繰り返されたときに生ずる限局性の角質増殖。職業や生活習慣により特定の場所にできる。ペンだこ,すわりだこなど。サリチル酸軟膏の塗布,切除,焼灼(しょうしゃく)などにより治療する。
→関連項目角化症発疹

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ダイビング用語集 「タコ」の解説

タコ

普通のタコはこちらから危害を及ぼさない限り、特に危険な生物ではないが、胴体の下部の足の中心によく発達したオウムのようなクチバシがあり、腕などに絡みついたときに、このクチバシでかみつかれることがある。太平洋の暖かい海に生息するヒョウモンダコは体長は小さいが、強い毒を持っているので、注意が必要。

出典 ダイビング情報ポータルサイト『ダイブネット』ダイビング用語集について 情報

普及版 字通 「タコ」の読み・字形・画数・意味

鼓】たこ

鼓うつ。

字通「」の項目を見る


【多】たこ

多幸。

字通「多」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

栄養・生化学辞典 「タコ」の解説

タコ

 軟体動物門イカ綱イカ亜綱タコ目の動物.マダコ,テナガダコ,ミズダコ,イイダコなどを食用にする.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のタコの言及

【半夏生】より

…休養と栄養をとって体力の充実をはかろうとしたものであろう。大阪地方では,稲の穂が多く分かれて生長するようにとの願いをこめて,この日タコ(蛸)を食べる風習がある。毒が降るので野菜の収穫を控えるというのは,ハンゲの名称と関連する伝承である。…

【角質】より

…人体では手掌や足底の表層の角質はとくに厚い。いわゆる〈たこ〉,魚の目は,そのような部位での角質の過度の増殖にほかならない。また,いぼ状の皮膚病変の多くは角質産生異常によるものである。…

※「タコ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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