カワウソ(読み)かわうそ(その他表記)river otter

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カワウソ」の意味・わかりやすい解説

カワウソ
かわうそ / 獺
川獺
river otter
common otter
[学] Lutra lutra

哺乳(ほにゅう)綱食肉目イタチ科の動物。広くカワウソ類という場合はイタチ科カワウソ亜科をさし、カワウソのほかに、オオカワウソコツメカワウソツメナシカワウソラッコなどの各属が含まれる。カワウソ類は、オーストラリア、ニュージーランド、マダガスカル島、北極および南極地方以外の地域に生息する。カワウソは、12種ほどに分類されているカワウソ属のなかの1種で、ヨーロッパ、アフリカ北部からアジア中北部に生息する。

[古屋義男]

形態

体色は、体の上面は黒褐色、下面はやや明るい褐色である。胴長で四肢は短く、尾は基部が太くて胴との境界が不明瞭(ふめいりょう)で、先端部はやや扁平(へんぺい)である。頭胴長は60~85センチメートル、尾長は30~50センチメートル、体重は4~10キログラムほどである。歯式は

で合計36本。体形は全体として流線形で、前後肢とも指の間に水かきが発達し、頭部は平たくて耳は小さい。耳と鼻孔とは水中では閉じる。目は頭部の上端についており、泳ぎながら周辺を見るのに適している。毛は上下毛とも密生し光沢がある。とくに上毛は水はけがよく、水を下毛までなかなか通さない。体をくねらせ、尾と四肢を巧みに使い、水中を活発に泳ぐ。

[古屋義男]

生態

カワウソの生息場所は、河川、湖沼、海岸である。普通、日中は河岸や海岸の岩穴や土穴、木の茂みなどで過ごし、夜間に活動するようである。おもに水中で活動するが、ときには陸上にあがる。数キロメートルも丘を越えて移動することもあるというが、ラッコのように陸から遠く離れてしまうことはなく、川や海岸に沿って行動している。行動域はかなり広く、ヨーロッパの例では、川や海岸に沿って10~20キロメートルにも及ぶという。季節的に生息場所を変えることもあると思われる。食物は、魚やエビ、カニなどが多いが、ネズミウサギ、鳥、カエル、昆虫、カタツムリなども食べるという。量は飼育下で1日に約1.5キログラムの餌(えさ)を食べたという記録がある。普通、単独ないしは数頭の小集団で生活する。縄張りは明確ではないが、休息場所や育児場所である巣の近くに糞(ふん)をするほか、岩角や岸辺をいわゆるサインポストとして粘液質の便をし、マーキング(印づけ)することがある。糞は円筒状で3~10センチメートルぐらい、新しいうちは独特の強い臭気がある。魚の鱗(うろこ)や骨、エビやカニの甲などを含み、乾くと白っぽくなり、かさかさになる。行動域には、糞のほかに食べ残しの魚の残骸(ざんがい)もよくみられる。声は出すこともあるが、多くはない。妊娠期間は約60日、1産1~4子、子は閉眼被毛で生まれ、1年半から2年で成熟して子を産むといわれている。カワウソの生態については、まだ不明の部分が多い。

[古屋義男]

人間生活との関連

カワウソは人によくなれる動物らしく、中国やヨーロッパではペットにしたり、飼いならして魚を網に追い込むのに使ったこともあったという。しかし、養殖している魚を食い荒らすことから、大量に殺されもした。寒い地方では良質の毛皮が珍重されたし、肉を喜んで食べる地方もあった。

 すでに絶滅したと考えられるニホンカワウソはもとより、ユーラシア大陸のツンドラ以南にすむユーラシアカワウソなども減少しているのは、人間によって捕殺されてきたことが大きな原因になっている。さらに、生息している水域の汚染が急速に進行していることが、それに拍車をかけている。

[古屋義男]

民俗

カワウソは現在日本ではごく限られた土地にしか生息していないが、以前は相当広い地域に分布していたようである。民間伝承によれば、石川県能登(のと)地方ではカワウソは河童(かっぱ)と類似したものと考えられ、また四国の小豆(しょうど)島ではカワウソを神に祀(まつ)っている所もあった。全国を通じてみられるのは、「尻尾(しっぽ)の釣り」という昔話の主人公になっていることで、キツネとカワウソが御馳走(ごちそう)しあい、カワウソはキツネに尾を水に垂らして魚をとることを教えるが、これに従って寒中に尾を垂らしたキツネは、凍り付いた尾を無理に引っ張って尾を切ってしまうという話である。

[大藤時彦]

 日本ではカワウソは人を化かすという。川天狗(かわてんぐ)も正体はカワウソと伝える。カワウソの怪異性は、水と陸とにまたがる生態に由来するらしい。アイヌでも、カワウソは夜化けてくることがあると伝え、神の伝言を忘れたために記憶力を取り上げられたので、うかつにカワウソの肉を食べると物忘れするという。中国では古代から、カワウソがとった魚を並べて置くのを先祖への供物と見立てた。暦法の七十二候で、二十四節気の雨水(うすい)の第一候を「獺祭魚(だっさいぎょ)」とよぶのもその伝えによる。カワウソが魚を祀(まつ)るという意味で、旧暦正月にあたる。

[小島瓔


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改訂新版 世界大百科事典 「カワウソ」の意味・わかりやすい解説

カワウソ (獺)
otter
Lutra lutra

食肉目イタチ科の水生哺乳類。姿はイタチに似るが,体がずっと大きく筋肉質で,尾が太い。体長64~82cm,尾長30~50cm,体重5.5~17kg。体色は茶褐色,あごからのど,胸にかけては白い毛が生える。四肢の5本の指の間には水かきが発達する。頭は扁平で,鼻,目,耳がほぼ同一平面上につき,水中から頭を出すとこれら三つの器官を同時に水上に出せるなど,水生生活に適した体のつくりを備えている。北アフリカ,ヨーロッパ,アジアの大部分に分布する。カナダカワウソ,オオカワウソ,ツメナシカワウソなどの近縁種が南・北アメリカとアフリカに生息する。

 日本には,かつて北海道から九州の河川,池,沼などにニホンカワウソLutra nippon(亜種L.l.whiteleyiともされる)がごくふつうに生息していたが,優れた毛皮目当ての乱獲と,生息地である河川の荒廃のために,大正末期より各地で急速に減少し,1940年ころには絶滅が心配されるまでになった。現在では四国の南西部,とくに高知県の足摺岬を中心とした海岸部にごく少数が生き残るのみである。特別天然記念物に指定されている。

 ふつう,川や沼などの岸に,水面下に出入口のある巣穴を掘って単独で暮らし,おもに夜間活動して,もっぱら水中で餌をとる。とらえた獲物は特定の食事場に運び食べる。海岸にすむ場合には,巣は磯の岩の間などを利用してつくられる。魚介類,とくにウナギ,エビを好み,ほかにカエル,水鳥なども捕食する。行動圏は広く,雄で川ぞいに7km前後,雌で4km前後ある。小さな池や沼などの場合には,陸上を歩き,いくつかの水域を特定の通路で結んで利用する。行動圏の要所要所の石の上に,独特の強いにおいのある糞をする。糞には,たくさんの魚の骨が含まれている。

 妊娠期間は約61日,2~3子が生まれる。子は約8週間巣内にとどまり,数ヵ月間母親とともに行動し,この間に泳ぎや狩りの方法を覚える。川岸の斜面を利用して,おとなを含めて,すべり台遊びをすることが知られていることからも推察されるとおり,知能が高い。また,好奇心に富んでおり,尾を支えにして後足で直立し,遠方のものを注視する習性がある。
執筆者:

日本では古く〈おそ〉といった。水辺に生息して隠密行動を慣習とするので,人を驚かせるばかりでなく,立ち上がった姿が小児に似ているので,この動物が河童(かつぱ)の原型となったのであろうと推論する人もある。しかし,河童は本来水神の信仰の衰退によって生まれた想像上の姿であるから,これを実在の動物に比定するのは正しくない。中国ではカワウソが魚をとらえて自分の周囲に並べておき,ちょうど神に供えているように見えるとしてこれを獺祭(だつさい)と呼び,書斎で学者が周囲に参考書を積み重ねるのをこれにたとえている。日本でも同様の生態が見られるか否かは明らかでない。
執筆者:


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カワウソ」の意味・わかりやすい解説

カワウソ
Lutrinae; otter

食肉目イタチ科カワウソ亜科の総称。ユーラシアカワウソコツメカワウソラッコなど,4属 13種からなる。体長 41~130cm,尾長 13~65cm。体はこげ茶から黄土色で,耳が小さい。四肢の指間に蹼(みずかき)が発達し,水中生活に適応している。毛皮が良質のため乱獲され,また河川の開発,汚染のため数を減らし,日本ではニホンカワウソが四国の沿岸にわずかに生息しているだけであったが,絶滅したと考えられている。アジア中北部,ヨーロッパ,北アフリカに分布し,水辺にすんでカニ,水鳥,魚類などを捕食する。

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百科事典マイペディア 「カワウソ」の意味・わかりやすい解説

カワウソ

食肉目イタチ科の哺乳(ほにゅう)類。体長64〜82cm,尾30〜50cmほど。背面は暗褐色,腹面は淡褐色。ユーラシア大陸,北アフリカに分布する。日本ではかつては北海道から九州までニホンカワウソがふつうに生息していたが,現在では四国南西部の海岸にわずかに残存しているといわれるのみ。水辺の穴にすみ,夜行性で魚や水鳥などを食べる。毛皮は高価で,乱獲されたため絶滅の一歩手前にある。特別天然記念物。

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