山中氏(読み)やまなかうじ

改訂新版 世界大百科事典 「山中氏」の意味・わかりやすい解説

山中氏 (やまなかうじ)

近江国甲賀郡山中(現,滋賀県甲賀市)出身の中世武家。甲賀21家の一つ。橘諸兄(もろえ)の後裔といい,義清の代に山中氏を名のる。1216年(建保4)俊直が俊信に山中村地頭職と柏木御厨の上山村友行名を譲っているが,平安・鎌倉期の動向には不明な点が多い。ただし67年(文永4)俊信跡の大番役を有俊が務めているところからみて,御家人であったことは確かなようである。南北朝内乱期に道俊,頼俊が活躍し,多くの所領・所職を獲得する。その大半は柏木御厨に関するもので,祭主保々司職(甲賀保司職),惣荘検断職と給田1町,および上山村,本郷,山中村の名田山林,荒野である。またこの時期一族は,伊勢国と山中と柏木御厨とに分かれた。〈山中文書〉および中世武士の屋敷跡を伝えるのは柏木の山中氏である。山中氏は御厨内の開発を進めるなど勢力を伸ばすが,御厨の地頭職は室町幕府在京官僚の摂津氏がもっていた。一方,山中氏は近江守護六角氏頼から1357年(正平12・延文2)に御厨内上山村半分と池原杣荘内柑子村地頭職,同高経から71年(建徳2・応安4)に蒲生郡永吉保半済半分と甲賀郡岩根検断職,同満高から99年(応永6)に御厨内酒人郷半済などを与えられている。室町期には,幕府から鈴鹿警固を安堵され,1445年(文安2)六角久頼から栗太郡山田,勢多を与えられる一方で,美濃部,伴ら近隣諸氏あるいは同族抗争をおこしている。

 戦国期になると,山中同名中という擬制的同族組織が形成される。同名中は戦闘集団であり,奉行,年行事をもち,独自の掟を作り,百姓を若党に組織し,一定領域を支配した。山中と伴と美濃部の3同名中が連合して柏木三方を作り,さらに甲賀郡内の諸氏・同名中による甲賀郡中惣を形成した。同名中,三方,郡中惣は相互利害の調整や紛争の裁定を行い,甲賀郡を支配した。1568年(永禄11)浅井長政より誘われるが,織田信長に従い,85年(天正13)豊臣秀吉の紀州攻めの際に所領を失い帰農した。
甲賀者
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世界大百科事典(旧版)内の山中氏の言及

【柏木御厨】より

…その間に伊勢神宮は祭主保も設けたので,現地の荘官としては惣郷の検断職,各郷の下司職,祭主保の保司職があった。検断職と保司職は山中氏が世襲し,下司職や名主職は山中氏と伴氏が分有したようである。山中氏は惣領家が鈴鹿関付近から柏木本郷の宇田に移住し,野洲川沿岸の本郷・酒人郷一帯に勢力を築いた。…

※「山中氏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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