奉行(読み)ブギョウ

デジタル大辞泉 「奉行」の意味・読み・例文・類語

ぶ‐ぎょう〔‐ギヤウ〕【奉行】

[名](スル)
武家時代の職名。それぞれの職掌により政務を担当し執行するもの。鎌倉幕府が幕府の職制として各種の奉行を置いたのに始まり、戦国大名も各種の奉行を設け、豊臣氏は五奉行を設置。江戸幕府では寺社・町・勘定の三奉行をはじめ、中央・遠国に数十の奉行を設置した。
主君などの命令を奉じて物事を執り行うこと。また、その人。
「庭の儀を―する人」〈徒然・一七七〉
仏語。仏の教えを奉じ、それを行うこと。

ほう‐こう〔‐カウ〕【奉行】

[名](スル)命令を受けて執行すること。ぶぎょう。

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精選版 日本国語大辞典 「奉行」の意味・読み・例文・類語

ぶ‐ぎょう‥ギャウ【奉行】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( ━する ) 主君などの命を受けて他を指揮し、事を執行すること。政務や行事の執行において、幹事役をつとめること。また、その人。奉行人。ほうこう。
    1. [初出の実例]「奉勅、件人等改本姓、賜安倍猨嶋姓者、省宜承知、准勅施行、符到奉行」(出典:九条公爵家所蔵延喜式裏文書‐宝亀四年(773)二月八日・太政官符案)
  3. 武家時代の職名。公事(くじ)(=政務)を担当し執行するもの。鎌倉幕府にはじまり、最初は単に公事奉行人または奉行人と称したが、幕府行政・裁判制度の整備とともに、評定奉行官途奉行恩沢奉行安堵奉行進物奉行などが制度化された。また、戦国諸大名も各種の奉行を設け、豊臣氏は五奉行と称せられるものも置いた。江戸幕府では寺社・町・勘定の三奉行、作事・普請・小普請の下三奉行をはじめ、中央・遠国に数十にのぼる奉行を設置した。
    1. [初出の実例]「俊兼為奉行云々」(出典:吾妻鏡‐文治二年(1186)七月二八日)
  4. 江戸時代、裁判をつかさどった寺社・町・勘定三奉行のうち、特に、町奉行をさしていう。
    1. [初出の実例]「夜の明るを待兼、奉行(ブギャウ)へ御訴訟申あぐるに」(出典:浮世草子・西鶴諸国はなし(1685)五)
  5. 特に、江戸幕府初期において、後の老中にあたる年寄を奉行・奉行人と称した。幕府の高札に見える「奉行」はこの意味である。執政。宿老。
    1. [初出の実例]「定 一 喧嘩口論令停止之訖、自然有之時至、其場え一切不可出向事。〈略〉奉行」(出典:御触書寛保集成‐二・寛文元年(1661)六月一二日)
  6. 一般に、その任にあたる人。係りの人。多く、「御産奉行」などと熟して用いる。
    1. [初出の実例]「女房の衣など、こちたきまで押し出だせば、ぶ行とりて」(出典:増鏡(1368‐76頃)八)
  7. ( ━する ) 仏語。仏の教えを奉じ、それを実践すること。
    1. [初出の実例]「曾無作悪之心諸悪莫作諸善奉行之教也」(出典:万葉集(8C後)五・沈痾自哀文)
    2. [その他の文献]〔増一阿含経‐一〕

ほう‐こう‥カウ【奉行】

  1. 〘 名詞 〙 旨を奉じて行なうこと。命令を受けて執行すること。ぶぎょう。
    1. [初出の実例]「全世界に公にすべき大綱に至ては、万国通貫して之を奉行せしめざるを得ず」(出典:開化本論(1879)〈吉岡徳明〉上)
    2. [その他の文献]〔漢書‐魏相伝〕

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改訂新版 世界大百科事典 「奉行」の意味・わかりやすい解説

奉行 (ぶぎょう)

官制または職制において,上位者の命令を奉じて事にあたること。また転じてその役を務める者を指す。律令時代に宮廷儀式の臨時執行者をいうこともあったが,鎌倉時代以後,武家政権の職制のなかでおもに使用された。鎌倉幕府では,問注所,侍所,政所(まんどころ)にそれぞれ奉行が置かれ,その職制はほぼ室町幕府へ引き継がれた。豊臣政権はその末期に,五大老のほか五奉行制をしき,石田三成ら秀吉配下の実務官僚を任じて政務を処理させた。江戸幕府の職制では,寺社奉行町奉行勘定奉行の三奉行が有名だが,江戸以外にも奉行は設けられ(遠国(おんごく)奉行と総称),それらは伏見,奈良,長崎など主要各地に置かれるのが通例であった。幕末に入ると,時勢の推移とともに幕府の職制も変更を余儀なくされ,陸軍奉行海軍奉行など,従来みられなかった奉行職も新たに設けられた。なお幕府と同じく諸藩にも奉行職は存在し,なかでも郡(こおり)奉行は財政上の要職であったため,実務能力の優れた人物が抜擢(ばつてき)されることが多かった。
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普及版 字通 「奉行」の読み・字形・画数・意味

【奉行】ほうこう(かう)

法に従って行う。〔漢書、魏相伝〕相、易經にらかに、師法り。好んでの故事奏をる。以爲(おも)へらく、古今制を異にす。方今の務めは、故事を奉行するに在るのみと。

字通「奉」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「奉行」の意味・わかりやすい解説

奉行【ぶぎょう】

鎌倉幕府以後の武家の職名。鎌倉・室町幕府では各種の奉行が置かれ政務を分掌。豊臣秀吉五奉行を設置。江戸幕府では老中の支配下寺社奉行勘定(かんじょう)奉行町奉行を置いた。幕末国際情勢の急迫に伴い,陸軍奉行・海軍奉行・外国奉行などが新設された。
→関連項目遠国奉行

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「奉行」の意味・わかりやすい解説

奉行
ぶぎょう

もともと命を奉じて事を執行すること、またその役や人をいう。おもに武家方の職制中にみられる呼称。鎌倉・室町両幕府の役職には大半この称がつき、豊臣(とよとみ)政権の前田玄以(げんい)、浅野長政(ながまさ)、増田長盛(ましたながもり)、石田三成(みつなり)、長束正家(なつかまさいえ)の五奉行は有名。江戸幕府には役方番方ともにその称があった。おもなものを掲げると寺社・町・勘定の三奉行、長崎・京都・大坂・奈良・日光・佐渡そのほか主要の地に置かれた遠国(おんごく)奉行、旗奉行、槍(やり)奉行、幕末に設けられた外国奉行、陸軍奉行、海軍奉行などである。また諸藩にも各種の奉行職のあったことはいうまでもない。ちなみに、奉行の称が付せられた職とそうでない職との間に、かならずしも職掌上、一線を画するようなことがあったわけではなかった。

[北原章男]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「奉行」の意味・わかりやすい解説

奉行
ぶぎょう

命令を奉じて事を執行すること。またその担当者である奉行人をもいう。奉行には臨時のものと,特定機関の恒常的職員とがあった。鎌倉幕府の越訴 (おっそ) 奉行,官途奉行などの類は後者である。安土桃山時代には大老の下に五奉行がおかれ,政治の中枢に参画して行政にあたった。江戸幕府では,初め老中にあたる職を奉行,年寄といったが,職制が整備されると,町奉行勘定奉行寺社奉行その他各種の奉行がおかれて,職務が執行された。諸藩にも各種の奉行がおかれた。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「奉行」の解説

奉行
ぶぎょう

「奉(うけたまわ)り行う」の意で,上位者の命をうけて公事(くじ)や行事の実務にあたること。またその担当者も奉行あるいは奉行人という。鎌倉幕府では,はじめ実務にたずさわる人々を一律に奉行人とよんだが,のちには中・下級の事務官をさした。室町時代には,武家政治の故実を伝える奉行人の家が固定化して一つの政治勢力を形成した。江戸幕府では,老中(ろうじゅう)や若年寄の支配下にある特定の役所の長官を奉行といった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「奉行」の解説

奉行
ぶぎょう

鎌倉〜江戸時代の武家の職名。元来は上司の命令を奉じて事を執行すること,転じてその担当者をいう
①平安時代,宮廷の儀式などに際し臨時に定められた役。
②鎌倉幕府が臨時または常置して政務を分掌させた職名。鎮西奉行など。
③安土桃山時代,豊臣政権の政務担当者(五奉行)。
④江戸幕府の職制。三奉行(寺社・勘定・町)・遠国奉行などがある。

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世界大百科事典(旧版)内の奉行の言及

【院宣】より

…これに対し13世紀半ばにはじまる後嵯峨院政ころ以降の院宣は,従来の官符,官牒,官宣旨等にかわり,直接所領の寄進・安堵,相論裁許,国家租税の徴収・停止等の政務までを決裁するようになる。また奉者も院司の立場を超えた政務機関としての奉行がこれにあたった。奉行は政務を執る上皇が任意に任命し,上皇の政務を分担して奏聞・執行したが,奉行の奏事を上皇に取り次ぎ,上皇の仰を奉行に伝えるのは,伝奏である。…

【伝奏】より

…伝奏には,実務に精通した能吏の者が院宣によって補任されたが,傾向として弁官や職事を経験した公卿や蔵人頭のうちから選ばれることが多かった。伝奏の下で,政務を分担し,訴訟の受付け,政断の執行にあたったのが奉行であるが,伝奏は奉行の奏事を院に取り次ぎ,また院の意志を奉行に伝えて執行させるのがその役目である。政務の執行は,奉行の奉ずる院宣によって行われるが,所領,所職の与奪,安堵にかかる重事などは,伝奏自身が奉行を兼ね院宣を奉じた。…

※「奉行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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