岩井俊雄(読み)いわいとしお

日本大百科全書(ニッポニカ) 「岩井俊雄」の意味・わかりやすい解説

岩井俊雄
いわいとしお
(1962― )

メディア・アーティスト。愛知県生まれ。1985年(昭和60)筑波(つくば)大学芸術専門学群総合造形コース卒業、1987年同大学院芸術研究科修了。高校時代からアニメーションに強い関心をもち、大学では日本のコンピュータ・アートの草分け的存在である幸村真佐男(こうむらまさお)(1943― )に学ぶ。パーソナルコンピュータの発達普及期であった1980年代前半から、「ゾーエトロープ」(走馬灯)、「フェナキスティスコープ」(絵の描かれた円盤を回し、残像効果で像が動いているように見える装置)などの、映画前史にあたる光学的玩具から着想を得た作品を、パソコンを使って制作し始める。

 大学院修了後、ゲーム制作や映像制作の現場で働き、テレビなどに対応できるコンピュータ・グラフィクスCG)出力機能の充実した独創的な設計のパソコン、コモドール社製AMIGA(アミーガ)と出会う。いくつかのテレビ番組のCGをAMIGAでつくり、フジテレビジョン系列の幼児番組「ウゴウゴ・ルーガ」(1992~1994)の制作に参加する。この番組は、幼児対象であるにもかかわらずさまざまな実験精神に富み、技術的にはかなりの部分にパソコンCGを使い、その後活躍する多くのパソコンCG アニメーターを育てた伝説の番組である。

 一方でメディア・アーティストとしての活動も続け、1997年(平成9)『映像装置としてのピアノ』を制作。この作品は、参加者がトラックボール(入力用デバイス)を操作すると光が動いて前方にある実際のピアノにまで流れ、鍵盤まで到達して音と光のハーモニーを奏でるという、楽器であり映像装置である作品だった。この装置を使った坂本龍一とのコラボレーション作品『ミュージック・プレイズ・イメージズ×イメージズ・プレイズ・ミュージック』で、同年メディア・アートの国際展「アルス・エレクトロニカ」(オーストリア、リンツ)のグランプリを受賞。また、同年開館したNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)のオープニングにあたり、オープン・スタジオ形式で展覧会を行った。その後の作品に、東京駅前の丸ビル1階にある金融情報会社ブルームバーグのショールームに設置されたインタラクティブに反応する巨大な液晶ディスプレイ作品(2002)や、東京・台場の日本科学未来館の「時間旅行」展に出展した『マシュマロスコープ』(2003)などがある。また『シム・チューンズ』(1996。Maxis社)など、コンピュータ・ゲームも制作している。

 2002年より東京大学先端科学技術研究センター特任教授(~2006)。

 パソコン登場以降のメディア・アーティストとして脚光を浴びる存在であるが、アニメーションが創造活動(作家活動)の出発点であったことは、育った時代背景と絡んで興味深い。

[野々村文宏]

『「OPEN STUDIO岩井俊雄展――そのメディア・アートの軌跡」(カタログ。1997・NTT出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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