市民的不服従(読み)しみんてきふふくじゅう

改訂新版 世界大百科事典 「市民的不服従」の意味・わかりやすい解説

市民的不服従 (しみんてきふふくじゅう)

civil disobedienceの訳語。みずからの良心が不正とみなす国家・政府の行為に対しては,法律をあえて破っても抵抗するという思想と行動をさす。行動の代表に納税兵役拒否がある。

 市民的不服従という語は,しばしばアメリカのH.D.ソローと結びつけて語られる。1846年,アメリカ・メキシコ戦争の時,ソローはこの戦争が奴隷制拡大を目的としていると考え,その政府に税金を払うことは市民として拒むという態度をとり,わずか1日だが投獄された。48年1月26日,彼はのちに《市民的不服従》として出版された講演を行った。ソローの思想には,奴隷制廃止論者W.L.ギャリソンらのキリスト教アナーキストやインドの思想の影響もあるというが,基本的には,アメリカ独立宣言が示した抵抗権の思想を発展させたものといえる。ソローの考えでは,民主主義制度のなかで抵抗権を行使する最後の方法が市民的不服従だった。彼の思想はアメリカのみならず世界各地に広がった。たとえばロシアのL.N.トルストイ,インドのガンディーたちに影響を及ぼし,広くは非暴力抵抗の中心原則のひとつとなり,狭くは,たとえば良心的兵役拒否の行動を支える役目も果たした。

 第2次大戦後,市民的不服従の原理は影響力を増し,アメリカの公民権運動,ベトナム反戦運動はもとより,世界各地の民衆運動に継承され,イギリスの哲学者B.A.W.ラッセルは水爆に反対して1961年国防省前に座りこみ投獄された。日本に存在する市民的不服従の行動の一例に,防衛費に充当する税金の納入拒否がある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「市民的不服従」の意味・わかりやすい解説

市民的不服従
しみんてきふふくじゅう

抵抗権」のページをご覧ください。

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