改訂新版 世界大百科事典 「非暴力抵抗」の意味・わかりやすい解説
非暴力抵抗 (ひぼうりょくていこう)
非暴力の方法によって権力に抵抗すること。1955年12月6日,アメリカ合衆国アラバマ州モンゴメリーでバスの黒人差別に反対するバス・ボイコット闘争が始まり,約5万の黒人市民が参加,翌56年12月21日,闘争は勝利を収めた。これは非暴力抵抗の輝かしい勝利であった。この闘争を指導したM.L.キング牧師は,非暴力抵抗non-violent resistanceの特徴として次の5点を指摘した。(1)臆病者が使う方法ではなく,あくまでも抵抗の一種である,(2)反対者の打倒や侮辱ではなく,友情と理解の獲得を求める,(3)攻撃の目標は悪を行う人間ではなく,悪そのものの力である,(4)報復せず苦痛を甘受する,(5)反対者を憎まず,あくまで愛をもって対する。
非暴力の原理は,しばしば誤解されるが,無抵抗を意味しない。現代の非暴力主義の祖といわれ,キングにも大きな影響を与えたインドのマハートマー・ガンディーは,権威や権力への非協力・不服従を説き実践した(非暴力)。その抵抗も受動的でなく能動的であり,ガンディーがインドの伝統の中からつくりだしたサティヤーグラハとは〈真理と愛もしくは非暴力からする力〉を意味した。ガンディーは非協力は大衆行動,不服従は選良だけが行えると区別したが,後者はアメリカ人ソローの〈市民的不服従〉から学んだといわれる。ソロー,トルストイ,ガンディーらがつくりあげ,とくにガンディーが民衆運動として確立した非暴力抵抗の原理・規律・形態をうけつぎ発展させたのが,キングらの差別撤廃運動だった。これ以降,アメリカを起点として,西欧,アジア,アフリカなど世界各地に非暴力抵抗の運動が広がっていった。非暴力抵抗は,デモ行進,ボイコット,請願,断食,ストライキ,座込みなどの大衆的直接行動の形をとるのが普通であり,非暴力直接行動とも呼ばれる。しかし,これに対する批判としては,政治的有効性を問うものが最も多い。
→市民的不服従 →暴力 →良心的兵役拒否
執筆者:清水 知久
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報