日本大百科全書(ニッポニカ) 「希少がん」の意味・わかりやすい解説
希少がん
きしょうがん
rare cancer
発生がまれであるために、おもながん(胃、大腸、肺、乳腺(せん)、肝臓、前立腺のがんなど)と比べて、治療実態の把握がむずかしく、生存率などの治療成績が下回るなど、治療やケアにおいて課題が指摘されている種類のがん。
日本では、厚生労働省の「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会」において、その希少性のために、専門とする医師や医療機関が少なく、診断や治療法の開発・実用化、診療ガイドラインの整備がむずかしく、現状を示すデータや医療機関などの情報が少ないなどの課題が指摘された。おおむね、年間罹患(りかん)率(発生率)が人口10万人当り6例未満で、数が少ないために診療・受療上の課題がほかのがん種に比べて大きいがんと定義される。
「診療・受療上の課題」とはとくに、(1)標準的な診断法や治療法が確立しているかどうか、(2)研究開発、臨床試験が進んでいるかどうか、(3)すでに診療体制が整備されているかどうか(たとえば、いわゆる五大がんの一亜型など、頻度は低いものの診療体制が整っているものは原則として想定されない)、とされる。
具体的には、種々の肉腫(にくしゅ)(サルコーマ)、神経膠腫(こうしゅ)(グリオーマ)、膵臓(すいぞう)や消化管、肺などにおもに生じる神経内分泌腫瘍(しゅよう)、悪性黒色腫(メラノーマ)などの皮膚腫瘍、網膜芽細胞腫や脈絡膜悪性黒色腫などの眼腫瘍、悪性リンパ腫、副腎(じん)がん、小腸がん、尿膜管がん、小児脳腫瘍など、100種類以上におよぶがん種が希少がんに該当する。各々の希少がんはいずれもがん全体の1%にも満たないものの、希少がんの合計では、がん全体の15%以上を占める。
これに対し国立がん研究センターでは、学会や専門的な医師・医療機関と連携し、希少がんの診療実績についての情報を収集するとともに、希少がんに特化した診療と研究促進等を目的に、2014年(平成26)に「希少がんセンター」を開設した。また同時に、患者が最適・最良の医療を受けるための電話相談窓口として、専任の看護師による「希少がんホットライン」を開設している。
[渡邊清高 2018年6月19日]