網膜芽細胞腫(読み)もうまくがさいぼうしゅ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「網膜芽細胞腫」の意味・わかりやすい解説

網膜芽細胞腫
もうまくがさいぼうしゅ

乳幼児の目の網膜に発生する悪性腫瘍(しゅよう)。小児癌(がん)のうちでは白血病脳腫瘍神経芽腫に次いで多く、わが国では眼内に原発する悪性腫瘍中もっとも多い。全体の約30%は両眼に発生し、また約35~45%は次世代に遺伝する。この病気の初期は患児が幼いこともあって、まったく気づかれないことが多く、腫瘍がかなり大きくなって瞳孔(どうこう)がネコの目のように白く光ってみえる白色瞳孔(黒内障性猫眼(ねこめ))になって初めて家族が異常に気づくことが多い。しかし、ときには目の位置の異常(斜視)や目の視線が定まらないといった初期症状を示すこともあり、眼底検査で初期の腫瘍が発見されることがある。したがって、斜視あるいは白色瞳孔の子供はすぐ眼科医による眼底検査を受ける必要がある。

 治療としては、進行している場合は手術によって眼球を摘出する。また初期の場合は、放射線を照射したり、光凝固を施したりして腫瘍を破壊し、眼球を保存して視力を残す保存的治療法が行われる。放置すると脳または全身に転移して死に至るが、適切な治療を行えば約90%は生存し、また保存的治療法も約80%は成功する。したがって、早期発見専門医による早期治療がもっともたいせつである。

[箕田健生]

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百科事典マイペディア 「網膜芽細胞腫」の意味・わかりやすい解説

網膜芽細胞腫【もうまくがさいぼうしゅ】

0〜2歳の乳幼児の眼底に発生する悪性腫瘍。片目性のものが両眼性よりもやや多い。症状は白色瞳孔斜視などで,腫瘍が大きくなると瞳孔がネコの目のように黄色く光る。主に視神経を浸潤して脳に転移する。早期には放射線照射,凍結手術,レーザー光凝固などの保存的治療が可能だが,大きくなった場合は眼球摘出が必要。
→関連項目癌抑制遺伝子小児癌

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「網膜芽細胞腫」の意味・わかりやすい解説

網膜芽細胞腫
もうまくがさいぼうしゅ
retinoblastoma

乳幼児の網膜に発生する悪性腫瘍。日本では眼内悪性腫瘍のなかで最も多く,最近さらに増加の傾向がある。発病は1~2歳が多く,4歳になると極度に減少し,7歳以上では例外的になる。両眼性は 20~30%程度。常染色体性優性遺伝であるが,散発例も多い。子供の眼が光る (猫眼) ことで母親が気づくことが多い。腫瘍が大きくなると,眼圧が高くなり,緑内障状態となって,眼球も充血,腫脹する。さらに大きくなると,眼球壁を破壊して眼窩内に広がり,脳に浸潤したり,頸部や肝臓などに転移する。治療は,早期に眼球を摘出する。両眼性の場合は,重症眼を摘出し,軽症なほうの眼には放射線療法などを行う。

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家庭医学館 「網膜芽細胞腫」の解説

もうまくがさいぼうしゅ【網膜芽細胞腫】

 網膜(もうまく)に発生する悪性腫瘍(あくせいしゅよう)で、乳幼児におこります。
 初めは、白色瞳孔(はくしょくどうこう)で気づかれることがあり、斜視(しゃし)や眼球位置の異常がみられることもあります。視力低下、角膜(かくまく)の混濁などをともなうこともあります。
●治療
 両目か片方の目だけか、腫瘍の位置や大きさによって、眼球摘出や保存的治療が行なわれます。

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世界大百科事典(旧版)内の網膜芽細胞腫の言及

【癌】より

…その半分は常染色体で優性,1/3が常染色体で劣性,1/6が性染色体と連鎖した(X‐連鎖)病気である。常染色体優性の例としては,多発性神経繊維腫瘍,レックリングハウゼン病,網膜芽細胞腫(一部),家族性多発性大腸ポリープ癌,ガードナー症候群などをあげることができる。腫瘍の発生が単一遺伝子座の遺伝子に支配されていて,その遺伝子の持主には大多数に腫瘍が発生するのである。…

【黒内障】より

…現在では病名としては単独で用いられることはなく,現存する病名は,黒内障性猫眼amaurotic cat’s eyeと家族性黒内障性白痴amaurotic familial idiocyのみである。前者は網膜芽細胞腫retinoblastomaのある時期に瞳孔の中が光ることを指し,後者は代謝異常疾患の一つであるリピドーシスlipidosisの眼症状を主として指す病名である。【小林 義治】。…

【小児癌】より

…小児癌には,成人にはほとんどみられることのない特有なものと,成人にも小児にもみられるものとがある。前者には神経芽腫,ウイルムス腫瘍,網膜芽細胞腫,肝芽腫などがあり,後者には白血病,悪性リンパ腫,脳腫瘍などがある。しかし,どちらともいえないものや,また同じ病名でも,成人と小児とでは病型が異なり,症状や治療法の違うものが少なくない。…

※「網膜芽細胞腫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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