かつては摂護腺ともいった。ヒトを含め,哺乳類の雄のみに存する栗の実大の器官で,膀胱の下に位置し,真ん中を尿道が貫き,さらに左右から両側の精管が入り射精管となって尿道に注ぐ。精液の液体成分の大部分を占める前立腺液を分泌する。複合管状腺で20~30本の導管が尿道を中心に放射状に走り,腺の終末部はくびれの多いふくろをなす。腺上皮は,単層または2列の立方ないし円柱上皮で,電子顕微鏡で見ると核上部に多量の分泌顆粒をもっている。上皮の下には緻密(ちみつ)な結合組織があり,多量の平滑筋を含んでいて,これの収縮により射精管からの精液と前立腺の分泌物を尿道を経て体外へ放出させる。腺腔には分泌物のほかに前立腺結石prostata concretionとよばれる結晶物がみられるが,これは分泌物が凝集したもので,ときに同心性の層状構造を示す。分泌物はpH6.5で,やや乳白色を呈し,タンパク質分解酵素,酸性ホスファターゼ,ジアスターゼ,β-グルクロニダーゼなどを含む。また近年,プロスタグランジンも分泌されていることがわかってきた。なお無脊椎動物の輸精管に付随する腺様構造を前立腺とよぶこともある。
→性器
執筆者:藤田 尚男
前立腺の炎症は前立腺炎で,尿道炎より波及するものと,血行を介して起こるものとがある。経過により急性と慢性とに分けられる。頻尿,排尿痛,発熱などがみられる。抗生物質が有効。特異性炎症として結核性前立腺炎がある。抗結核剤が効を奏する。前立腺腫瘍としては,良性の前立腺肥大症,悪性の前立腺癌,前立腺肉腫がある。排尿障害がおもな症状。そのほか,排尿時膀胱頸部が十分開大しないために起こる前立腺症(膀胱頸部硬化症ともいう)や前立腺結石などがある。
執筆者:小磯 謙吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
男性生殖器(性器)の付属腺の一つ。古くは摂護腺(せつごせん)とよんだ。前立腺は膀胱底(ぼうこうてい)に密接しており、形、大きさはともにクリの実に似ている。とがった先端は前下方に向き、上面にあたる部分は膀胱頸(けい)(膀胱から尿道に移る部分)の直下にくる。なお、尿道は前立腺の中央部よりやや前部を貫通し、左右の射精管は尿道の後方で前立腺の中央部(前立腺中葉)を貫通している。
前立腺の全体の大きさは、左右径(上面)で約4センチメートル、前後径で約2センチメートル、垂直径で約3センチメートルほどで、重量は15~20グラムである。肛門(こうもん)から指を5センチメートルほど先まで入れて直腸を触診すると、前方で前立腺に触れることができる。前立腺を構造のうえからみると、一部が筋性、一部が腺性となっている。すなわち、前立腺は平滑筋線維を含む結合組織の被膜に包まれ、腺の内部の実質中にも多量の平滑筋が結合組織とともに分布している(間質という)。また、尿道を囲んで30~50個の分岐管状胞状腺が同心円状に配列し、その導管(15~30本)が放射状に尿道の周りを走っている。ここからの分泌物は乳白色でさらさらした液であり、内腔(ないくう)に貯留されるが、射精時には排出される。精液の約15~30%は前立腺の分泌液が占める。分泌液はアルカリ性で、ジアスターゼ、β(ベータ)‐グルクロニダーゼや数種のタンパク分解酵素を含む。精子の運動は、これらの分泌物によって活発になるといわれる。一般的に、50歳以上になると前立腺肥大がおこる。これは、男性ホルモンの減少、性ホルモンの失調などによって、結合組織の増生がおこり、肥大をきたすものである(80歳までに、その発症率は80%という)。前立腺肥大になると、膀胱頸や尿道の圧迫により排尿障害が生じる。なお、前立腺癌(がん)は、男性にとっては悪性腫瘍(しゅよう)の一つとされる。
[嶋井和世]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ヘロフィロスは,《解剖学》《眼について》などを著し,脳を知性の座と考え,運動神経と知覚神経を区別した。prostata(前立腺),duodenum(十二指腸)は彼の命名に基づく。エラシストラトスは,脳室と脳膜を記載,大脳回の観察(知識を結びつけた),乳糜(にゆうび)管の観察,心臓の半月弁,三尖弁の発見など,多くの業績を残している。…
… ヒトの性器は性腺(生殖腺)を中心に,これに付属ないし関連する諸器官からなる。すなわち男性では睾丸(精巣)で作られた精子が副睾丸(精巣上体)から精管を経て尿道に運ばれるが,付属腺として精囊や前立腺などがあり,交接器として陰茎がある。女性では卵巣とそこで作られた卵子を運ぶ卵管と,受精卵を育てる子宮,交接器としての腟などがおもな性器である。…
※「前立腺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新