日本大百科全書(ニッポニカ) 「年候」の意味・わかりやすい解説
年候
ねんこう
アメリカの気象学者ラッセルRichard Joel Russell(1895―1971)が命名した、その年その年の気候を表す用語。ラッセルの論文中の用語ではclimatic yearといい、その後はyear climateといわれている。
世界気象機関(WMO)による定義では最近30年間の平均値を「気候」としている。また、長年の平均気温と降水量によって、ドイツのケッペンが世界各地の気候区分法を提唱した。ところが、ラッセルが年々の平均気候区分にしてみると、かならずしも毎年同じ気候区分とはならないことをみいだし、その年その年の気候を「年候」と名づけた。台湾の南西沖の澎湖島(ほうことう/ポンフータオ)はケッペンの気候区分ではCfa(温暖湿潤気候)であるが、福井英一郎(1905―2000)の年候研究によるとCfaは一度も出現せず、Cwa(温帯夏雨気候)が最多出現頻度の気候区分であることがわかった(1960)。いいかえれば、平均値気候が地域と年代によっては存在しないことがある可能性を示唆している。昨今の急激な温暖化により、日本国内でもケッペン気候区分が徐々に変わっていることが、各社の地図帳に明記されるようになってきた。平均値による気候を静気候というのに対して、最頻値による気候を動気候と称する。実際に発現しうる気候は動気候であり、かつ気候の成因も動気候的解析によって明らかになってきた。
[福岡義隆]