イギリスの作家O・ワイルドの童話。『幸福な王子その他』The Happy Prince and Other Tales(1888)に『わがままな巨人』The Selfish Giantなど4編とともに発表。黄金の王子像がツバメに託して、身につけた黄金や宝石を貧しい人たちに配る。すべてを失ってみすぼらしくなった像は火に投じて溶かされたが美しい心臓だけは溶けずに残ったという物語。ワイルドには『ざくろの家』The House of Pomegranates(1891)収録の4編とあわせて9編の創作童話があり、すべて息子たちに話すために書いたというが、彼の人生観を寓意(ぐうい)的に反映し、比喩(ひゆ)は奇想天外、文章は色彩の美しさと音楽性に富み、特異な鬼才の片鱗(へんりん)を示して十分大人の鑑賞に値する。
[前川祐一]
『『幸福な王子』(山田昌司訳・岩波文庫/守屋陽一訳・角川文庫/西村孝次訳・新潮文庫)』
…詩は若いころ才気あふれる作品を発表したが,1898年発表の《レディング監獄の歌》は彼の最後の芸術的創作であり,心境の変化を物語っている。小説では《ドリアン・グレーの肖像画》(1891)が道徳に煩わされぬ芸術観を宣言しているが,《幸福な王子》(1888)などの童話も無視できない。批評論集《意向集》(1891)は,逆説やレトリックに満ちあふれ機知豊かな文体で有名となったが,批評を一つの芸術活動として認めている点で,近代批評の出発点とみることもできる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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