巨人(読み)キョジン

デジタル大辞泉 「巨人」の意味・読み・例文・類語

きょ‐じん【巨人】

神話や伝説によって伝承される巨大な人物。ジャイアント
きわめてからだの大きい人。
その分野ですぐれた能力をもち、偉大な業績のある人。「財界の巨人
[補説]書名等別項。→巨人
[類語](2大男巨漢大人ジャイアント/(3偉人巨星英傑傑物傑士傑人人傑俊傑怪傑大人物逸材大物女傑大器英雄ヒーロー老雄群雄奸雄両雄風雲児

きょじん【巨人】[作品名・球団]

《原題、〈ドイツTitanジャン=パウル長編小説。全4巻。1800年から1803年にかけて刊行。作中に登場する唯美主義的な人物ロケロルは、詩人シラーモデルと考えられている。
《原題、〈ドイツ〉Titanマーラー作曲の交響曲第1番の通称。ニ長調。全4楽章。1888年作曲、1889年初演。1896年改訂。名称はに由来する。
読売ジャイアンツ

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精選版 日本国語大辞典 「巨人」の意味・読み・例文・類語

きょ‐じん【巨人】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 並はずれて体の大きい人。巨漢。大男。転じて、人力の及ばない巨大な力をもつもの。〔伊呂波字類抄(鎌倉)〕
    1. [初出の実例]「此ぞ『東京』と云ふ巨人のつく吐息かと思はるる一種の悲歌が身に浸みて」(出典:思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉七)
    2. [その他の文献]〔史記‐周本紀〕
  3. 偉大な能力、業績のある人。
    1. [初出の実例]「西鶴が元祿の巨人として芭蕉及び巣林子と鼎足するは衆批判家の一致する処にして」(出典:社会百面相(1902)〈内田魯庵〉附録)

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改訂新版 世界大百科事典 「巨人」の意味・わかりやすい解説

巨人 (きょじん)

世界各地の神話や民間伝承に登場する,異常に大きな体をもち超人的な能力を発揮する存在。通常の人間の支配の及ばない自然界のできごとや自然物の創造などに関連づけられることが多い。始源の過去や,あるべき秩序がこの世に現れる以前の混沌とした状態を象徴し,秩序をもたらす新しい神々や普通の人間の出現とともに消滅するか,社会の周縁部に押しやられる。巨人は,自然や過去に対する文化や現在の優越を物語る神話の論理構造の中で,否定的存在として登場することが多い。

 巨人伝説には,次のような類型が見られる。(1)日本の〈だいだらぼっち〉系説話のような,山や湖沼などの自然物の起源を過去の巨人の行動に求めるもの。(2)新秩序の形成に抵抗する荒ぶる古神としての巨人伝説。古代ギリシア神話ギガンテスティタングアテマラのキチェー族原住民のポポル・ブフ神話のカブラカンCabracánやシパクナーXipacnáなどがこれに当たる。(3)15世紀までのヨーロッパ人が遠いアジア地方の住民について抱いたイメージのような,未知の異民族に関する異形神話。巨人のほかにも,小人,半人間,一目人,一足人などと想像される場合もある。(4)征服民族と被征服民族のような,既知ではあるが互いに敵対的な民族の間で,過剰悪の象徴としての巨人という異形観を相手と結びつけ,負の価値におとしめようとする場合。(5)神話的想像の論理によって誇張された巨人。大洪水のときにノアの箱舟の転覆を図ったという,くるぶしまでしか水につからなかった巨人をめぐるパレスティナ伝説は,その一例である。

 これらの巨人伝説の類型に共通しているのは,未知・既知あるいは想像・現実を問わず,自民族や現在を肯定し,その正統性や秩序関係を主張するために,他民族や過去のような〈対立的他者〉に正常=中心から大きくはずれた巨人=異形=周縁という価値を付与するという自己中心的論理が背後に見られるということである。この点では,身体的劣性のためにやはり周縁的な負の価値に結びつけられる小人の場合と同様である。巨人は周縁的価値を付与されているがゆえに,森や山のような今もなお人間の支配が及びにくい領域には,日本の天狗伝説にみられるように,今でも巨人が住んでいるとされることがある。巨人と自然界のつながりは,巨人がほとんど裸体であったり深い体毛におおわれているとしばしば描写されることにも示される。巨人は大女の形をとり,大地の豊饒性という文化による統御を拒むもうひとつの自然界の本質を象徴することもある。その意味で,巨人は否定的存在というよりも,自然のもつ根源的な力に対する人間の畏怖の念の形象化だと言えるだろう。
執筆者:

異常に大きな体格の持主が山や沼を作るなど超人的な行動をするという伝説は,世界的な広がりをもって伝承されているが,日本でも古くは《播磨国風土記》などに記載されている。巨人はもともと,天地創造神としての性格を持ち,山や沼の生成に関係して畏敬されてきたものであろう。それが信仰の衰微とともに,さまざまな伝説となって各地に伝えられている。奥羽の八郎太郎は大蛇に化したという話以外に,巨人として山を削ったり,川をせき止めたりしたという話もある。栃木県のデイデンギメという巨人は,羽黒山に腰掛けて鬼怒川で足を洗ったという。関東地方一帯には,〈だいだらぼっち〉の大足跡とか,沼や小山を作ったという話がある。箱根山のアマンジャクは,富士山を削って相模灘に捨てたので,その結果伊豆大島ができたという。近江には大大法師がいて,土を掘って畚(もつこ)に入れたので琵琶湖ができ,その土を捨てたところが富士山になったと《奇談一笑》に記されている。長崎県の味噌五郎は,雲仙嶽に腰を下ろして有明海で顔を洗ったという。南九州には大人(おおひと)弥五郎が伝承されていて,足跡や塚が伝えられている。同時にこの巨人は隼人(はやと)征伐の儀式としての祭りの人形にもなっている。話がさらに現実味を帯びてくると鬼とか大力,大男になり,また弁慶や百合若(ゆりわか)大臣の名で呼ばれたりしてくる。このように日本の巨人伝説は,天地創造神としての素朴な信仰を失い,一方ではいささか滑稽味のある誇張譚になり,他方では別の神の配下におかれている。沖縄の巨人アマンチュウ(天の人)は,大昔天地が接近していたときに両手で天を押し上げたという。別伝によれば,てんびん棒で日と月を担いで回っていたが,棒が折れて日月は遠くに落ち,悲しんで泣いた涙が川になったという。日本神話の伊弉諾(いざなき)尊の両目から日月神が化生したという話と関連していて興味深い。
小人
執筆者:

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百科事典マイペディア 「巨人」の意味・わかりやすい解説

巨人【きょじん】

巨大な身体と超人的能力をもつ存在で,世界中に伝説が残る。以下のような類型がある。(1)その肉体から世界の山川草木が生じた太初の巨人(中国神話の盤古北欧神話イミル)。(2)神族と対抗する巨人(ギリシア神話のギガンテスティタン)。(3)実在の民族を誇張したもの(パタゴニア人)。(4)異形の巨人(ギリシア神話の一つ目巨人キュクロプス)。(5)四囲の自然現象,古代生物の骨などから想像された巨人(日本のだいだらぼっち,大人(おおひと)弥五郎クック海峡を作ったニュージーランドの英雄クーペ,プリマスで発掘された巨大な骨や歯から想像された旧約聖書の巨人ゴグ,マゴグなど)。
→関連項目小人伝説

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「巨人」の意味・わかりやすい解説

巨人
きょじん
giant

世界の神話伝説にはしばしば人間に似た形をもつが,体躯も膂力 (りょりょく) も人間よりずっと巨大な巨人たちが登場する。ギリシア神話の巨人ギガンテスや北欧神話の霜の巨人たちなどはその典型的な例である。ギリシアでも,北欧でも,これらの巨人たちは神々と敵対する悪魔的存在だが,ギリシア神話にはまた,一眼巨人キュクロプスたちや百手巨人ヘカトンケイルたちのように,神々に味方する巨人たちも登場する。また北欧のイミルや中国の盤古,インドのプルシャのような,巨人の死体から世界がつくられたという神話も各地にあり,「世界巨人」型の創造神話と呼ばれる。

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普及版 字通 「巨人」の読み・字形・画数・意味

【巨人】きよじん

大きな人。また、すぐれた人。〔史記、周紀〕(き)、兒爲(た)りし時、屹(きつ)として人の志の如し。

字通「巨」の項目を見る

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デジタル大辞泉プラス 「巨人」の解説

巨人〔ウルトラ怪獣〕

円谷プロダクションによる特撮ドラマシリーズ「ウルトラシリーズ」に登場する怪人。初登場作品は『ウルトラQ』。身長20メートル、体重500トン。巨蝶モルフォ蝶の燐粉を浴びた人間が沼の水を飲んで巨大化した姿。

巨人〔曲名〕

オーストリアの作曲家グスタフ・マーラーの交響曲第1番(1884~88、93~96)の標題。原題《Der Titan》。名称はドイツの作家ジャン・パウルの小説『巨人』に由来する。

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世界大百科事典(旧版)内の巨人の言及

【ジャン・パウル】より

…生存中の一時期,上流婦人たちの間で非常な人気を博したこともあったが,ゲーテ,シラーとは相入れず,20世紀になってようやく高い評価を得た。主要作品は,《見えないロッジ》(1793),《宵の明星》(1795),《貧民弁護士ジーベンケースの結婚生活と死と婚礼》(1796‐97),《巨人Titan》(1800‐03),《生意気ざかり》(1804‐05),《彗星》(1820‐22,未完)などのほか,《見えないロッジ》の付録として発表された短編《マリア・ウッツ先生の生涯》(1791執筆)があり,さらに,大部の《美学入門》(1804),《レバーナもしくは教育論》(1807)がある。なおマーラーの第一交響曲《巨人》の名は彼の小説に由来する。…

※「巨人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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