改訂新版 世界大百科事典 「庶物指教」の意味・わかりやすい解説
庶物指教 (しょぶつしきょう)
実物教授,実物科ともいわれ,object teaching,object lessons,lessons on objectsの訳語。さまざまな事物(庶物,objects)や現象を子どもに観察,体験させ,子どもの直接的感覚を媒介にして,教員との問答を通じて,それらの事物や現象に関する名称,形状,特質,機能,用法などを子どもたちに教授する方法。直接的感覚をいとぐちとして子どもたちに確実な知識や認識を形成させようとするペスタロッチの教授論に基づいている。19世紀初頭にイギリスにおいて,主として幼児教育の指導法として定式化されたのがアメリカに渡り,公教育学校での低学年児童への教授法として整えられた。日本には近代学校制度創設当初の1870年代にアメリカを通して導入され,新教授法として80年代末までかなり普及した。《加爾均(カルキン)氏庶物指教》(2冊,1877),《塞児敦(シトルドン)氏庶物指教》(2冊,1878-79)などの指導書が文部省により翻訳出版された。イギリス,アメリカにおいてすでに教授法として形式化されたのが,集権的な日本においていっそう定型化され,観察や問答が単なる文字教授の手続として固定化されたのと,80年代後半からの徳育重視主義のもとで不相応の教授法とみなされたために,ヘルバルト主義の段階教授法の隆盛とともにしだいに衰微していった。
執筆者:佐藤 秀夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報