客観
きゃっかん
object
主観の対(つい)概念。「主観―客観」関係は近世哲学の根本的枠組みである。この関係をどうとらえるかによって、客観は異なった意味をもつ。
(1)主観subjectum(ラテン語)が根底に横たわる現実的実在であるのに対し、客観objectumラテンは「前に投げられたもの」として、意識の表象像、意識内容を意味する。たとえばデカルトの「客観的実在性」は意識のうちにある限りでの実在性を意味している。
(2)認識する主観の対象であるが、その存在が個人的主観に依存しないものをいう。しかしあらゆる主観に普遍的に妥当するという意味で、主観との相関関係のうちにある。たとえばフッサールにおいて客観は間(かん)主観的に構成される。
(3)その存在があらゆる主観から端的に独立である実在をいう。客観こそが実在であり、客観の存在が主観における普遍妥当性を可能にする。主観が客観に依存するのである。この「主観―客観」関係は(1)と逆の関係である。
[細川亮一]
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客観
きゃっかん
object
主観に対するもの。客体ともいう。ラテン語 objectumに由来するが,中世スコラ哲学では,その意味は今日とは逆で,意識内容,表象の意であった。この傾向は 17世紀まで続き,デカルトにおいても realitas objectivaは観念的実在の意であり,realitas actualis (現実的実在) または realitas formalis (形相的実在) と区別された。スピノザにおいても同様で,esse objectivumは観念的存在の意であり,esse formaleと区別された。このスコラ的用語法が逆転し,主観の意識の向けられる対象の意味でこの言葉が用いられるようになったのは,イギリス経験論,ことにロックにおいてであり,そしてカントにおいて初めて主観との対立概念として客観という言葉が明確に規定された。
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かっ‐かん カククヮン【客観】
〘
名〙 (「かく」は「客」の
漢音。object の
訳語)
※心理学(1878)〈西周訳〉
凡例「致知家の術語観念実在主観客観帰納演繹総合分解等の若きに至りては大率新造に係はるを以て読者或は其意義を得るを難んする者あらん」
※春迺屋漫筆(1891)〈
坪内逍遙〉梓神子「
足下の客観
(カククヮン)にて当今の傾きは主観なり」
[語誌]明治初期の新造語で、現在では「きゃっかん」と読む人が多いが、明治二九年(
一八九六)の「日本大辞典」や同四〇年の「辞林」に「かくくゎん」の見出しで説明されているから、明治期は多く「
かっかん」と言われていたと考えられる。
きゃっ‐かん キャククヮン【客観】
〘名〙 (object の訳語)
① 意志や認識などの精神作用が目標として向かう対象。また、主観と独立して存在する
外界の対象。対象。客体。⇔
主観。→
かっかん(客観)。
② (━する) 自分の直接的な関心から離れて、第三者の
立場で、物事を見たり考えたりすること。⇔
主観。
※面白半分(1917)〈宮武外骨〉政教文芸の
起源は悉く猥褻なり「猥褻とは
人道の大本を客観
(キャククヮン)したる事にして」
[語誌]中国の
古典籍では「立派な
容貌」「外観」の意味で用いられたが、日本では明治初期に、英語 object の訳語となり一般化した。今日は「きゃっかん」の読み方が普通であるが、明治時代は「かっかん」が一般的。
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きゃっ‐かん〔キヤククワン〕【客観】
[名](スル)
1 観察・認識などの精神活動の対象となるもの。かっかん。⇔主観。
2 主観から独立して存在する外界の事物。客体。かっかん。⇔主観。
3 当事者ではなく、第三者の立場から観察し、考えること。また、その考え。かっかん。
「つくづく自分自身を―しなければならなくなる」〈梶井・瀬山の話〉
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世界大百科事典内の客観の言及
【西洋哲学】より
…この〈ヒュポケイメノン〉がラテン語ではsubjectum(下に投げ出されてあるもの)と訳され,〈シュンベベコス〉がaccidens(偶有性)と訳されて,〈基体‐属性〉というこのとらえ方は中世のスコラ哲学や,さらには近代哲学にもそのまま受けつがれてゆくのである。
【主観‐客観と主体‐客体】
〈ヒュポケイメノン〉のラテン訳であるsubjectumという言葉は,スコラ哲学や近代初期の哲学においては,それ自体で存在し,もろもろの作用・性質・状態を担う〈基体〉という意味で使われていた。ホッブズやライプニッツは魂をsubjectumと呼んでいるが,それも感覚を担う基体という意味においてであり,そこには〈主観〉という意味合いはない。…
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