学校などの教育施設で、教育の職務を担当する者をいう。類語として、教育職員、教師、教官、師匠、先生、教育者などがある。教員は、法令用語として使用され、員数の観点から使用されることが多い。教育職員は、事務職員や医療職員など職員構成を示す用語で、校長、教頭、教育長、指導主事など広く教育関係職員を含むのが一般的である。教師は、員数よりも教えを与える師という意味合いがある。教官は、教育の国家官吏で、国立学校の教員をいう。師匠は、強い師弟関係によって、学問や技芸を弟子に仕込む先達者への敬称。先生は、一般に教員をさすが、教職に限らず広く精神的・技術的指導者にも使用される敬称。教育者は、優れて教育的配慮のできる人を表す。ここでは教員に限定して説明する。
[水原克敏 2023年3月17日]
学校教育法では、「学校には、校長及び相当数の教員を置かなければならない」(第7条)として、校長は教員と区別されている。教員構成をみると、大学及び高等専門学校には、教授、准教授、助教、講師がある。大学教授の職務は、「専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の特に優れた知識、能力及び実績を有する者であって、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する」とある。准教授は、上記規定のうち「特に優れた知識、能力及び実績を有する者」の部分の「特に」が削除されて、「優れた知識、能力及び実績を有する者」とあり、助教は同じく「特に優れた」が削除されて、「知識、能力及び実績を有する者」、そして講師は「教授又は准教授に準ずる職務に従事する」とある。いずれも、教育・研究・実務に関する知識・能力・実績が求められている(第92条)。高等専門学校の場合は、教授以下、大学と同様の教員構成であるが、「研究」がなく「教育上又は実務上」の知識・能力・実績が求められ、職務は「学生を教授する」だけである(第120条)。教育・研究機関か、教育機関か、という制度的位置づけを反映したものである。
小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、幼稚園の教員としては、教頭、教諭、助教諭、養護教諭、養護助教諭、講師、そして実習助手、寮母がある。なお講師の場合には、いずれの学校でも常勤と非常勤とがある。教頭の職務は、校長を助け、校務を整理し、および必要に応じ児童の教育をつかさどる。教諭は、児童・生徒の教育をつかさどる。養護教諭は、児童・生徒の養護をつかさどる。助教諭は、教諭の職務を助ける(第37条)。これらの学校では、校長・園長の監督のもとに教頭や各種主任などを設置して職務体制をとっている。
[水原克敏 2023年3月17日]
任用、免職、休職、復職、退職の人事は、設置者や校種によって異なる。大学の場合には、国立大学法人か、地方公共団体の長(公立)か、設置者の法人(私立)かが行う。ただし教授会、評議会、学長からの申請による。公立の高等学校、中学校、小学校の場合には、主として都道府県教育委員会が、私立の場合には設置者の法人が行う。大学附属校は、学長が選考し、公立では地方公共団体の長が任命する。ただし、小中高に関しては県・市教育委員会の人事交流の一環に組み込まれているので教育委員会がかなり関与している。
給与は、国立学校の場合、「一般職の職員の給与に関する法律」によっていたが、2004年(平成16)に法人格となり、各法人が定めている。公立学校教員は、同法律に準じて条例で決定される。私立の場合はその設置者が決定している。手当の種類は、生活給的なものとして、扶養手当、期末手当、通勤手当、住居手当、初任給調整手当があり、地域給的なものとして、調整手当、僻地(へきち)手当、寒冷地手当がある。職務給的なものとして、特別調整手当(管理職手当)、特殊勤務手当、産業教育手当、定時制通信制手当、義務教育等教員特別手当があり、能率給的なものとして、勤勉手当、宿日直手当などがある。
さらに義務教育等教育職員への「教職調整額」の支給がある。1971年(昭和46)のいわゆる「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」で、同法の成立過程においては、教職の性格をめぐる論議がなされた。それは、教員は「労働者か聖職か」、労働者ならば労働時間分の手当が必要であるが、聖職なら不要となるというもの。結局、労働基準法とは異なる特別の原則により「専門職」と位置づけて、超過勤務手当分として給与月額の4%相当が支給となった。これによって勤務時間が延びても、時間外勤務手当と休日勤務手当は支給されないことになった。
[水原克敏 2023年3月17日]
義務教育諸学校の教員定数は、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(義務教育標準法、1958)により学校規模を基準として定められ、高校は「公立高等学校の設置、適正配置及び教職員定数の標準に関する法律」(1961)により課程別・学科別に規定されている。高等専門学校、短期大学、大学は、設置基準により規定されている。
第8次「公立義務教育諸学校教職員定数改善計画」によって、2011年(平成23)に、上記のいわゆる「義務教育標準法」等が一部改正され、「30年ぶりの40人学級の見直し」と教職員定数改善とが進められた。理由は、「新学習指導要領の円滑な実施」と、「いじめ」対応など、「教員が子どもと向き合う時間の確保による質の高い教育の実現が急務」という説明である。
改善事項は、2013年度から2017年度までの5か年計画で、「教育水準向上のための基礎定数の充実」を図ることである。その主たる内容は、第1に「35人学級の推進など学級規模の適正化」で、「国の責任により教職員定数を確保し、地方の主体性により学年を選択しつつ、今後5年間で、中学校3年生までの35人以下学級を実現」すること、あわせて、「複式学級の解消・改善のための支援も実施」することである。第2に「個別の教育課題に対応した教職員配置の充実」で、「いじめ問題への対応、教育格差解消のための学習支援、特別支援教育への対応など、国民が求める教育上の課題に対する支援を実施」することである。
この改善計画の目玉は、これまでの40人学級編制の基準から、小学校1年生は35人学級、2年生から中学校3年までの40人学級を「標準」と改正したことである。地方教育委員会は、これを「標準」として生徒および地域の実態に応じて学級編制および教職員を配置することになった。もともとの計画では、35人学級編制を小学校全学年に2015年度まで、中学校全学年は2016年度までに実現し、さらに小学校1・2年生の30人学級編制も2018年度までに達成する計画であったが、かなり遅れてしまった。
ようやく2021年(令和3)に「義務教育標準法」が改正され、小学校の学級編制の標準を5年間かけて計画的に35人に引き下げることが決定され、2025年度で完成の予定である。ただし、付帯条件として、その教育効果の検証、外部人材の活用、そして教員免許制度のあり方の検討が求められている。
「公立高等学校等教職員定数改善」については、第6次の5年計画が2005年(平成17)で終了し、その内容は、少人数授業、特色ある高校への加配、教頭・養護教諭の複数配置の拡充などであった。
そして2010年に新公立高等学校教職員定数改善計画が作成された。そこには「習熟度別少人数指導やキャリア教育の充実など10年ぶりの新たな教職員定数改善計画を策定」と銘打たれている。「『強い人材』の実現は、成長の原動力としての未来への投資」および「世界最高水準の教育力を目指し、生徒の興味・関心・能力等に応じたきめ細かな指導の充実や生徒指導面の課題等への対応など質の高い教育の実現が急務」という説明である。
具体的な改善事項は、習熟度別少人数指導の充実、生徒指導(進路指導)担当教員の配置改善、養護教諭の配置改善(生徒の心身両面の支援)、特別支援教育コーディネーターの配置改善、そして外国人生徒への日本語指導の充実などで、2011年度から2015年度までの5か年計画である。
先進国と比較すると、日本は教職員定数だけが問題にされがちであるが、教員の仕事を補佐する助手と事務職の設置が貧弱な実態にある。部活動や給食の集金事務まで担当していては、教員は専門職の仕事に専念できない。
2020年(令和2)以降、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、そして部活動指導員も入れた「チーム学校」づくりが提唱されているが、都市部を除いて適切な人材の不足や人間関係の煩雑さなど課題が多い。
[水原克敏 2023年3月17日]
アメリカでは高等教育機関で養成されるが、教員資格・免許制度は各州によって異なる。小・中学校教員の任命権者は、設置者の教育委員会である。身分は一種の地方公務員であるが、給与体系は種々異なる。
イギリスでは、3年制の教員養成大学、または大学卒業後の1年制の教育学科で養成される。主として、前者は初等学校教員を、後者は中等学校教員を養成する。公立学校教員は、地方教育当局によって任命され、給与も同当局によって支給される。
フランスでは、3年制師範学校で小学校教員が養成され、大学と高等師範学校で中等学校教員が養成される。小学校教員は大学区総長より任命され、中等学校教員は文部大臣から任命される。いずれも国家公務員であり、給与は国から支給される。
ドイツでは、国民学校教員と中間学校教員は教育大学と総合大学で養成され、ギムナジウム教員は総合大学で、職業学校教員は職業学校教員養成大学で、特殊学校教員は、国民学校教員の資格保持者を対象に、大学付置の医学教育研究所等で養成される。教員は各州の文部大臣から任命される州公務員である。給与も州から支給される。
ロシアでは、小学校低学年担当教員は師範学校で養成される。同校は8年制義務教育修了者を入学資格とする4年制の中等専門学校である。第4~第10学年担当の教員は教育大学と総合大学で養成される。小・中学校の校長は連邦共和国の教育省によって決定されるが、校長以外の教職員は、校長の推薦をもとに地方行政機関によって任命される。給与は国から支給される。
中国では、全国から募集する師範大学と、省内から募集する師範学院とが高級中学(高校)の教員養成をし、初級中学の教員は師範学校で、小学校教員は中等師範学校で養成するなど、学校によって養成水準が異なる。給与は市や省など地方政府から支給される。
[水原克敏 2023年3月17日]
幕末の寺子屋師匠の身分調査では、武士25%、平民41%、僧侶(そうりょ)19%、神官7%、医者8%であった。平民の寺子屋師匠が最多数の41%を占めていたことは、庶民教育がかなり普及していたことを示している。
明治維新によって、文明開化を担う近代的学校が創設され、教員もそれに応えるだけの新しい資質が要求された。そのために、1872年(明治5)東京に師範学校を創設したが、一度に大量に教員を供給することは困難であった。小学校も同年に全国で創設したため、資格や規則を無視し、従来の藩校、郷学、寺子屋の師匠はもちろん、神官、僧侶、士族など、多少和漢学の素養のある者ならだれでも任命し、その後、講習会を開いて新しい知識と教授法とを伝習するという方法をとった。
さらに、地方の実態を踏まえながら、「小学校教員心得」「小学校教員免許状授与方(じゅよかた)心得」「師範学校教則大綱」を1881年(明治14)に制定することで、教員養成制度が整備された。近代的な教職は、前近代の寺子屋の師匠とは違い、国家的要請によって学校のあり方が決定され、その基準から教員としての必要な資質が育成されることになった。
時代の進展に伴い、教職は標準化され近代化されたが、当時は、画一化され統制化されなければならなかった。一応の学問的レベルを有する教員が学校教育を担うことにはなったものの、反面、地域住民との乖離(かいり)、子どもらとの第一次集団的親密さの喪失を余儀なくされ、しだいに国家の末端官吏としての性格を強めるようになった。この傾向は、教職の発展期に入っていよいよ進行し、また矛盾も顕在化することになった。
[水原克敏 2023年3月17日]
1900年(明治33)から1930年(昭和5)にかけて、公教育の発展が著しく、教員の構成や意識に、また教職の性格や社会的地位などに大きな変化をきたした時期であった。成立期には10万人にも満たなかった職業集団が、1930年までには23万人という大職業集団に成長した。そのなかには女性教員も大量に進出し、小学校教員では3分の1を占めるようになった。そして学校の平均教員数も、成立期には2名に満たなかったのが、1930年ごろには約9名程度になり、学級・学年などの分担制、教員の管理指導体制の確立、教職の近代的組織化がなされてきた。
教員養成では、従来の師範学校の本科第一部のほかに本科第二部が創設され、これによって師範学校の生徒数が2万人から4万5000人にまで増大し、不十分ながら大量養成の方策がとられた。さらにこの時期は、資本主義の発達を背景に教員の生活問題が生じて、法律によって俸給の最低額を保障しなければならなかった。この結果、教職を賤業(せんぎょう)視したり、転職したりする者が出てきたが、反面では、師範学校附属小学校や私立小学校など恵まれた教員たちのなかには、自らの専門性を積極的に認め、教育実践の専門家を目ざす者も出てきた。あるいは自らを労働者として認め、生活権の擁護を主張して組合を結成する者も現れてきた。この段階にいたって教職はようやく現代的様相を帯びてきた。
中等学校教員の場合には、高等師範学校と大学とで養成され、小学校教員に比してはるかに恵まれた地位と待遇にあった。1929年(昭和4)からは、高等師範学校から昇格した二つの文理科大学(筑波大学と広島大学の前身)で養成されることになった。
第二次世界大戦前の教員は、初等・中等・高等の学校レベルによる教養と待遇、そして出身階層に格差がみられ、学校レベルに対応した教員への序列化が進行したが、第二次世界大戦後になると、「大学で教員養成する原則」が確立し、小・中・高の教員養成は、ほぼ同様の教育内容水準が提供され、それぞれの教員間の格差をかなり解消してきた。戦後の教員養成の原則がもたらした成果である。
[水原克敏 2023年3月17日]
国立・公立・私立学校の本務教員数は、2022年(令和4)「学校基本調査」によると、幼稚園8万7752人、幼保連携型認定こども園13万6543人、小学校42万3440人、中学校24万7348人、義務教育学校(小中一貫校)6368人、高等学校22万4734人、中等教育学校(中高一貫校)2749人、特別支援学校8万6816人、高等専門学校4025人、短期大学(短大)6785人、大学19万0646人、専修学校3万9982人、各種学校8482人で、総数146万5670人である。
また、文部科学省『令和元年度学校教員統計(学校教員統計調査報告書)』によって学歴構成をみると、幼稚園教員の場合、大学院修了者が1.0%、大学卒28.9%、短大卒67.9%であり、小学校教員は、大学院修了者が4.9%、大学卒88.1%、短大卒6.6%であり、中学校教員は、大学院修了者8.9%、大学卒86.8%、短大卒4.1%、高等学校は、大学院修了者16.8%、大学卒81.3%、短大卒1.2%である。年々学歴は向上し、大学院修了者はまだ少ないが伸びつつある。
しかし、先進国のなかでみると、日本の大学進学率は、経済協力開発機構(OECD)平均62%よりも低い54%(2020)であり、教員の大学院進学率も低いのが特徴で、国民および教員ともに学歴の低い国になってしまっている。
上記の教員統計で女性教員の占める割合をみると、幼稚園92.8%、小学校61.6%、中学校43.0%、高等学校32.0%、特別支援学校61.8%、専修学校52.9%、各種学校43.4%であり、毎年微増程度の変化しかない。
2018年に医科大学入試で女子差別問題が明らかになったが、教員の場合は、実は採用試験で調整されている。学校運営および生徒指導などの都合から、女性教員が過剰に増加することが懸念され、「望ましい」とされる男女比率の観点から処置されるなどの隠れた問題がある。
さらに教員の多忙化と教員不足の問題がある。小・中学校とも、定められた勤務時間は、一般に8時15分から16時45分であるが、文部科学省の勤務実態調査(2016年度)による平均は、小学校が7時30分から19時1分まで、中学校が7時27分から19時19分までで、1日当りの学校内勤務時間が、小学校で11時間15分、中学校で11時間32分と報告されている。そのうえ教職特有の仕事として、土・日曜日も含めて部活動指導と自宅での採点や授業準備などもあり、OECDで最高の時間数で、過労死レベルの超過勤務であると指摘された。
「教員の働き方改革」の問題となり、対策として、2019年(令和1)改正教職員給与特別措置法で、「1年単位の変形労働時間制の適用」と「業務量の適切な管理等に関する指針の策定」が要請された。しかし解決策には程遠く、ブラック職場のイメージが広がるばかりで、若者の「教員離れ」が進行し、2022年度の公立学校教員採用試験倍率は過去最低の3.7倍に落ち、全国的に「教員不足」も改善していないという状況にある。
[水原克敏 2023年3月17日]
『石戸谷哲夫著『日本教員史研究』(1967・講談社)』▽『斎藤喜博編『教師が教師となるとき』(1972・国土社)』▽『水原克敏著『近代日本教員養成史研究』(1990・風間書房)』▽『水原克敏・足立佳菜・鈴木学編著『学校を考えるっておもしろい!!――教養としての教育学~TAと共に創るアクティブ・ラーニングの大規模授業』(2017・東北大学出版会)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
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…人間とくに子ども,青年を指導し,その発達を助け促す人。類似の語に教育者,先生,師匠,師,教員などがある。学校制度発足前には教師,教育者,教員などの語はなく,学芸,武道あるいは歌舞音曲などを教授する人は師匠と呼ばれていた。…
※「教員」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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