引渡(読み)ひきわたす

精選版 日本国語大辞典 「引渡」の意味・読み・例文・類語

ひき‐わた・す【引渡】

〘他サ五(四)〙
① 綱・幕・橋などを、一方から他方へ張り渡す。張りめぐらす。引き延べる。また、線を引く。
書紀(720)神代上(兼方本訓)「又秋の穀(たなつもの)、已に成りぬるときに、則ち、冒(ヒキワタス)(〈別訓〉はふる)に絡縄(あせなは)を以てす」
② 引っぱって、あるところから他へ行かせる。
※和歌九品(1009頃か)「望月の駒引わたす音す也勢多の中道橋もとどろに」
罪人を引き回しにする。引き回す。
日葡辞書(1603‐04)「ヒトヲ fiqiuatasu(ヒキワタス)
④ 手元にある人や物を他人の手に移す。譲り渡す。
※大内氏掟書‐一〇八~一一五条後書・文明一九年(1487)四月二〇日「この御さためをそむき、わたりの人をなやます事あらは、その舟かたを関、小くらの代官の所へ引わたすへし」
書物の文字面などを説明する。また、書物にざっと目を通す。
※日葡辞書(1603‐04)「キャウノ ジメンヲ fiqiuatasu(ヒキワタス)

ひき‐わたし【引渡】

〘名〙
① 綱や幕などを一方から他方へ張り渡すこと。また、物を一面に引き広げること。
更級日記(1059頃)「皆人は、かりそめのかりやなどいへど、風すくまじくひきわたしなどしたるに」
② 人や物を他に引き渡すこと。また、売買契約の成立した商品を売方から買方に渡すこと。〔仏和法律字彙(1886)〕
遊女を客のもとに出すこと。
浮世草子・好色一代男(1682)七「かか刕(しう)が引わたしのささ事過で、はやかぎりある夜とて床取りて」
④ 法律で、拘束した人や占有した物を他に移転すること。民法では一定の簡便な方法を認めている。
※逃亡犯罪人引渡条例(明治二〇年)(1887)五条「請求に応じ其引渡を為すことあるべし」
⑤ 本膳に杯を三つ添えた膳部。また、三方熨斗(のし)・勝栗・昆布などをのせたもの。
※虎明本狂言・麻生(室町末‐近世初)「中々御かれいのことく、まづ引わたし、かんしゅでござる」

ひき‐わた・る【引渡】

〘自ラ四〙
① (「ひき」は接頭語) 時を過ごす。
蜻蛉(974頃)上「しらかはの関のせけばやこまうくてあまたの日をばひきわたりつる」
② 馬などを引いて通る。
※経信集(1097頃)「春霞まづひきわたるあをむまをあしげなりとはたれかみざらむ」
③ 雲や霧がたなびいて一方から他方に流れる。〔日葡辞書(1603‐04)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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