引立(読み)ひきたてる

精選版 日本国語大辞典 「引立」の意味・読み・例文・類語

ひき‐た・てる【引立】

〘他タ下一〙 ひきた・つ 〘他タ下二〙
① 横になっている物や人を引っ張って立つようにする。引き起こす。
※蜻蛉(974頃)上「生糸(すずし)のいとを長うむすびて、一つむすびては、ゆひゆひして、ひきたてたれば」
② 戸、障子などを、引き出してたてる。引いて閉じる。
※落窪(10C後)二「やり戸あけたりとておとどさいなむとて、ひきたてて、錠(ぢゃう)ささんとすれば」
③ 引いてきた車などを、とめる。車をとどめる。
※宇津保(970‐999頃)蔵開下「車ひきたててみる」
④ 馬などを、引いて連れ出す。引いて連れて行く。
延喜式(927)祝詞「高天の原に耳(みみ)振立(ふりたて)て聞く物と、馬牽立(ひきたて)て」
⑤ いっしょに連れて行く。いっしょに行くようにせきたてる。また、無理に連れて行く。連行する。
※源氏(1001‐14頃)夕霧「やがてこの人をひきたてて、推し量りに入り給ふ」
⑥ 人や、ある方面の事柄を、重んじて特に挙げ用いる。特に目をかける。ひいきにする。
古今著聞集(1254)一「重代稽古のものなりけれども、引たつる人もなかりけるに」
勢いがよくなるようにする。気分・気力の勢いをよくする。気を奮い立たせる。
※新撰六帖(1244頃)六「杣山のあさ木の柱ふし繁みひきたつべくもなき我が身哉〈藤原家良〉」
一段とみごとに見えるようにする。特に目立つようにする。きわだたせる。
※俳諧・七番日記‐文化七年(1810)九月夕顔に引立らるる後架哉」
注意を集中する。特に、聞き耳を立てる。
※うもれ木(1892)〈樋口一葉〉八「引(ヒ)き立(タ)つる耳に一と言二た言、怪しや夢か意外の事ども」

ひっ‐た・てる【引立】

〘他タ下一〙 ひった・つ 〘他タ下二〙 (「ひきたてる(引立)」の変化した語)
① 引いて立たせる。引き起こす。引っぱって持ち上げる。また、立てるを強めていう語。
※幸若・和田宴(室町末‐近世初)「わたがみつかむでひったててくさずりながにざっくときる」
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉六「耳ひッたててよッくきけ」
② 無理に連れて行く。手荒に引っぱって行く。
※玉塵抄(1563)一四「左将軍の官の辛慶忌がひったてて殿をおろさうとしたればらんかんにとりついたぞ」
③ 無理に取り上げる。しいて金を棒引きにする。
滑稽本・人間万事虚誕計‐後(1833)「給金不残ひったて」
④ 勢いをつける。元気をだす。
※内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙緒言奮起(ヒッタ)てよ奮起てよ」
歌舞伎の「暫(しばらく)」の場面で、花道へ登場した主人公を揚幕の方へ追い払う。
※歌舞伎・名歌徳三舛玉垣(1801)三立「日本一の暫くだぞ。〈略〉天王のお目障りだ。引立まするでござりませふ」

ひき‐た・つ【引立】

[1] 〘自タ五(四)〙
① 勢いがよくなる。
(イ) 状況がさかんになる。活発になる。
朝野新聞‐明治一五年(1882)五月一八日・附録「東京物価表〈略〉売方弗々買埋め旁漸々引立ち」
(ロ) 気分・気力の勢いがよくなる。元気づく。気力が加わる。
人情本・仮名文章娘節用(1831‐34)三「お雪にだに是等の始末を、秘しかくして語ることなく、気のひき立(タタ)ぬも理なり」
② 一段とみごとに見えるようになる。特に目立つ。きわだつ。
※俳諧・八番日記‐文政三年(1820)五月「初幟田も引立ぬ引立ぬ」
武蔵野(1887)〈山田美妙〉中「眉が美事で自然に顔を引立たせたので」
③ しりぞく態勢になる。逃げ腰になる。浮足立つ。
※太平記(14C後)八「是程に引立たる大勢の中より」
[2] 〘他タ下二〙 ⇒ひきたてる(引立)

ひっ‐たて【引立】

〘名〙 (「ひきたて(引立)」の変化した語)
① ひったてること。
※歌舞伎・戻橋脊御摂(1813)三立「われが引(ヒ)っ立(タ)ての血祭り坊主か。名は何と云ふづく入だ」
② 元気をだすこと。気を張ること。
※蛻巖先生答問書(1751‐64か)中「或は気癖の悪しきと、気の引っ立ての甲斐なき故なりと云者、是誠に遁辞にて」
③ 歌舞伎の「暫(しばらく)」の場面で、花道へ登場した主人公を揚幕の方へ追い払おうとすること。また、その役。
※歌舞伎・暫(1714)「いつもの通り御苦労ながら、引立(ヒッタテ)が来ましたぞへ」
④ トンネル工事で、上部に近く掘る長方形または台形の部分。

ひっ‐た・つ【引立】

(「ひきたつ(引立)」の変化した語)
[1] 〘自タ五(四)〙
① 勢いがよくなる。盛んになる。元気になる。
※内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉緒言「足下にして奮起(ヒッタ)たん歟」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「どうも気が引立(ヒッタ)たぬ」
② きわだって見える。めだつ。
※滑稽本・八笑人(1820‐49)四「出る時顔をかくして、正面へ直ってぐっと見せると、かくべつひったつぜ」
[2] 〘他タ下二〙 ⇒ひったてる(引立)

ひき‐たて【引立】

〘名〙
① 人を重んじて特に挙げ用いること。特に目をかけること。ひいきにすること。
※落窪(10C後)四「国の事いとよくなしたりければ、ひきたてよくて、やがて播磨になしつ」
② 勢いをよくすること。さかんにすること。また、気力・気持を奮い立たせること。
※類従本赤染衛門集(11C中)「よからばぞよきさ増さるといらふべき引立もなき心地こそすれ」
③ いっしょに連れて行くこと。無理に連れて行くこと。連行。
※花間鶯(1887‐88)〈末広鉄腸〉中「武田の捕縛に為りしとき其の宿主にて情を知るの嫌疑を以て引(ヒ)き立てになり」

ひっ‐たち【引立】

〘名〙
① 勢いがよくなること。盛んになること。元気になること。また、そのもの。
※雑俳・川柳評万句合‐安永七(1778)梅三「よし町へ後家引ったちを買に来る」
② きわだってみえること。めだつこと。
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二「あの方が幾程宣(いい)か知れない、引立(ヒッタチ)が好くって」

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