真言宗の開祖である弘法大師空海の伝記絵巻。誕生から入唐,入定まで,あるいは死後の栄誉をも含め,奇瑞にみちた一代記を描く。鎌倉時代には各宗の祖師の伝記絵巻が隆盛したが,その風潮の中でこの絵伝も13世紀ころから真言宗寺院の教化の具として大いに流布した。《高祖大師秘密縁起》10巻(13世紀半ば),《高野大師行状図画》6巻(1272ころ),同10巻(1319ころ)の3系統はいずれも原本は失われ,後世の転写本や版本が多数のこる。一方,東寺所蔵の《弘法大師行状絵巻》12巻は,高野山の系統をひく前記諸本のほか各種伝記を集大成したもの。1374年(文中3・応安7)から1389年(元中6・康応1)まで16年をかけて,法眼祐高などの絵仏師や宮廷絵所預の巨勢行忠など4人の画家が分担して制作したことが判明している。各巻はおのおのの画家によって独自の画風を展開しており,14世紀後半における絵巻物制作の実情を示して貴重な作品である。なお,これらとは別系統のものにフリア美術館本(井上家旧蔵)2巻,ホノルル美術館本(久松家旧蔵)1巻がある。
執筆者:田口 栄一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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