改訂新版 世界大百科事典 「御曹子島渡」の意味・わかりやすい解説
御曹子島渡 (おんぞうししまわたり)
御伽草子。渋川版の一つ。作者,成立年不詳。奥州藤原秀衡(ひでひら)のもとにいた御曹子義経は,蝦夷(えぞ)の千島喜見城に鬼の大王が大日の法という兵法書を所持していると聞き,さっそく四国とさの湊から船出して喜見城の内裏へ向かう。途中,馬人(うまびと)の住む王せん島,裸の者ばかりの裸島,女ばかりが住む女護(にようご)の島,背丈が扇ほどの者が住む小さ子島などを経めぐった後,蝦夷が島に至り,内裏に赴いて大王に会う。大日の兵法を授かりたい旨訴えるが許されず,姫の朝日天女と契りを結んでその所在を教えられ,念願の大日の法を書き写す。御曹子がひそかに島を逃れ出ると,牛頭(ごず),馬頭(めず),阿防羅刹(あほうらせつ)の鬼どもが追いかけるが,塩山(えんざん)の法を使ってこれをまどわし,さらに早風の法によってたちまちにとさの湊に帰り着く。再び奥州へと下った御曹子は,朝日天女が父大王に殺されたことをぬれての法によって知り,手厚く供養する。のちに御曹子はこの兵法ゆえに日本国を思いのままに従えることになる。御曹子を笛の名手として描き,朝日天女を江の島の弁財天の化身とするなど,重要な説話のモティーフの錯綜する異郷遍歴譚。兵法書などからの影響も見られる。同名の絵巻にやや古いかたちが認められ,同系の作に《判官都咄(みやこばなし)》(1670刊本)がある。
執筆者:宮田 和美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報