毛細血管網とその輸入・輸出血管である細動脈,細静脈を一括して微小循環系と呼ぶ。微小循環とは本来,微小循環系内の血液の流れを意味する。しかし現在一般に用いられている微小循環の概念はさらに広く,微小循環系内の血流に加えて,系内血液-間質液-組織細胞間の物質移動,間質液の流れとリンパ系を通じての輸送などをも包括する。血液循環の主目的は,生体内部環境の維持,すなわち全身の各組織細胞に対する生活物質の供給と代謝産物の除去にある。したがって循環系で最も本質的な役割を果たす部分は微小循環系であり,心臓や太い動・静脈は各臓器,体部の微小循環系に適切な血流状態を維持するための補助装置である。全身の細胞の生活条件は微小循環によって直接規定される。微小循環の障害は,その組織の機能不全を引き起こし,障害の部位と広さによっては生命の喪失を招く。
微小循環という名称が一般に用いられるようになったのは1960年代ころからであるが,その研究の歴史は300年以前にさかのぼる。1661年,イタリアのM.マルピーギはカエルの肺ではじめて毛細血管を発見し,1674年,オランダのA.レーウェンフックは自作の顕微鏡を用いてウナギの尾部で毛細血管内の赤血球の流動を観察した。以後19世紀初頭まではおおむね形態学的な観察の記述にとどまっていたが,そのころ微小循環の重要性に着目し,構造,機能の両面から広範な研究を行って近代微小循環学の基礎を築いたのがデンマークのクローSchack August Steenberg Krogh(1874-1949。1920年ノーベル医学・生理学賞受賞)である。こうして微小循環はしだいに生理学,薬理学,臨床医学などの各分野の研究者の関心を集めるようになってきた。今日では,あらゆる病態の根底に微小循環不全が深くかかわっていることが広く知られている。なお最近では物理学者,化学者,工学者なども研究に参加し,大きな学際領域として発展しつつある。
執筆者:東 健彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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