悲しぶ(読み)カナシブ

デジタル大辞泉 「悲しぶ」の意味・読み・例文・類語

かなし・ぶ【悲しぶ/哀しぶ/愛しぶ】

[動バ四]
悲しむ1」に同じ。
法顕ほっけん三蔵の、天竺てんぢくに渡りて、故郷の扇を見ては―・び」〈徒然・八四〉
悲しむ2」に同じ。
「霞をあはれび、露を―・ぶ心」〈古今仮名序
[動バ上二]上代語》「悲しむ1」に同じ。
「今日だにも言問ことどひせむと惜しみつつ―・びませば」〈・四四〇八〉
[補説]この例「可奈之備」と表記。「備」は上代特殊仮名遣いで乙類の仮名であり、連用形語尾が、四段活用の場合は甲類、上二段活用の場合は乙類という事実があるので、これは上二段活用と推定される。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「悲しぶ」の意味・読み・例文・類語

かなし‐・ぶ【悲・哀・愛】

  1. [ 1 ] 〘 他動詞 バ上二段活用 〙 悲しく思う。嘆く。
    1. [初出の実例]「今日だにも 言問(ことどひ)せむと 惜しみつつ 可奈之備(カナシビ)ませば 若草の 妻も子どもも」(出典万葉集(8C後)二〇・四四〇八)
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 バ四段活用 〙
    1. 悲しく思う。嘆く。あわれむ。
      1. [初出の実例]「天稚彦の妻、下照姫の哭泣(なき)悲哀(カナシフ)声、天(あめ)に達(きこ)ゆ」(出典:日本書紀(720)神代下(水戸本訓))
      2. 「王聞きて驚きて悲ひ泣きて涙を流し給ふ」(出典:観智院本三宝絵(984)上)
    2. ( 愛 ) いとおしむ。いとしがる。
      1. [初出の実例]「かくてぞ、花をめで、鳥をうらやみ、かすみをあはれび、露をかなしぶ心、ことばおほく、さまざまになりにける」(出典:古今和歌集(905‐914)仮名序)
      2. 「形端正(たんじゃう)にして心に愛敬有けり。然れば父母も此を悲び給ふ事无限し」(出典:今昔物語集(1120頃か)一九)
    3. 感動をもよおす。心をうたれる。
      1. [初出の実例]「その時に、山の主、俊蔭が琴の音をこころみて、かなしび給て、俊蔭を連ね給て二つといふ山に入給ふ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)

悲しぶの語誌

( 1 )上代末に、形容詞「かなし」の語幹接尾語「ぶ」の付いた上二段動詞として成立し、平安初期にバ行四段動詞となり、「かなしぶ」「かなしむ」と語形のゆれを生じる。
( 2 )「今昔物語集」以後、「かなしむ」が優勢に転じる。ともに漢文訓読語的、男性語的傾向の強い語であったが、平安後期以降「かなしむ」の用例数が増えるのにつれて、その傾向は薄れていく。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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