江戸前期の俳人。宗因門。姓は松永(松長),岡西(岳西)。幼名平吉,のち勝,且。別号は玄旦,庸哉,北水浪士,一時軒,一翁道人,飯袋子等。因幡国鳥取の人。1667年ごろ備前国岡山に出て,藩校の教授を志すが報いられず,余技として始めていた俳諧に望みを託し,75年(延宝3)〈寓言(ぐうげん)〉説によって談林俳諧を裏づけた俳論書《俳諧蒙求(もうぎゆう)》を著して俳壇に雄飛,のち大坂へ移住した。貞門派との論争には常に正面に立ち,《しぶ団(うちわ)返答》(1675),《誹諧破邪顕正(はじやけんしよう)返答》(1680)等を出したが,同門の西鶴らとも対立した。天和期(1681-84)以後は連歌,漢詩など本来の世界へ帰った。正徳1年10月26日没。73歳。〈文をこのむきてんはたらく匂ひ哉〉(《俳諧蒙求》)。
執筆者:乾 裕幸
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江戸前期の俳人。岡西氏。別号一時軒、北水浪士その他。因幡(いなば)国(鳥取県)鹿野(しかの)の出身。のち岡山で儒を業とし和歌、連歌(れんが)、書道にも通じたが、かたわら大坂の西山宗因(そういん)に俳諧(はいかい)を学び、延宝(えんぽう)(1673~81)の初め宗因流談林俳諧の勃興(ぼっこう)に乗じて華々しい著作活動を展開、1678年(延宝6)大坂に進出して自ら宗因後継者をもって任じた。談林随一の論客で俳諧寓言(ぐうげん)論を鼓吹(こすい)、貞門旧派との論争にも筆陣を張ったが、延宝末、談林の衰退後は俳諧から遠ざかり、ふたたび儒に帰した。墓所は大阪市天王寺区銀山寺。
[今 栄蔵]
短冊の旗管城(かんじょう)の固め前は花
『島居清著「岡西惟中」(『俳句講座2』所収・1958・明治書院)』
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…談林俳諧の総帥西山宗因の〈抑(そもそも)俳諧の道,虚を先として実を後とす。和歌の寓言,連歌の狂言也〉(《阿蘭陀丸二番船》)とか,その門下の岡西惟中の〈俳諧とはなんぞ。荘周がいへらく滑稽なり。…
…中国古代の哲学者荘子の寓言論を,〈源氏物語寓言説〉にならって俳諧に適用し,非論理の滑稽を事とする談林俳諧を理論的に裏付けようと試みたもの。主唱者岡西惟中(いちゆう)の《俳諧蒙求(もうぎゆう)》(1675)に,〈大小をみだり,寿夭をたがへ,虚を実にし,実を虚にし,是なるを非とし,非なるを是とする荘子が寓言(略)全く俳諧の俳諧たるなり〉とあり,日常的な価値観の逆転が生み出す滑稽を俳諧の本質とみたらしいが,上記に続けて〈しかあれば,思ふままに大言をなし,かいでまはるほどの偽を言ひ続くるを,この道の骨子と思ふべし〉と述べることからもうかがわれるとおり,惟中の寓言理解は表現の皮相にとどまっていたかに思われる。また寓言説に基づく惟中の俳論は,あまりにも衒学(げんがく)的で,現実への対応に欠ける面が大きかったため,世俗の人情を重んじる西鶴らの俳諧観とは相いれず,やがて確執へと発展した。…
…歳旦吟の習慣は漢詩人に始まるが,歳旦三つ物は連歌では紹巴,俳諧では貞徳に始まり,発句の主を順送りにして3組重ねる形式が普通。歳旦帳の刊行は俳壇で寛文年間(1661‐73)に始まり,俳諧から漢詩に転じた惟中によって元禄(1688‐1704)初年に漢詩でも試みられ,その習慣が詩壇にも移った。俳諧の歳旦帳は初め横本で丁数も少ないが,しだいに丁数や趣向を競い,元禄以降は中本・半紙本のものも出現し,〈初懐紙(はつがいし)〉〈春興帖〉などと称して,様式も異なってくる。…
…俳諧論書。惟中(いちゆう)著。1675年(延宝3)刊。…
…代表的な俳論書に立圃《はなひ草》(1636),重頼《毛吹草》(1638),貞徳《御傘(ごさん)》(1651),季吟《埋木》(1656)などがある。 談林の俳論は,荘子の〈寓言〉論を俳諧に適用し,虚を重んじ〈無心所着(むしんしよぢやく)〉の俳体を奨励した岡西惟中の俳論によって代表される。これは西山宗因の自由主義を代弁するものであったが,あまりにも衒学的で奇に過ぎたため内外の反発をかい,論戦が展開された。…
…連歌では,心敬の《ささめごと》に〈月やどる水のおもだか鳥屋(とや)もなし〉などを〈無心所着〉の例句として挙げ,〈此姿おほく聞こえ侍り〉と記す。俳諧では岡西惟中が談林俳諧の特質を〈無心所着〉性に求め,〈すべて歌・連歌においては,一句の義明らかならず,いな事のやうに作り出せるは,無心所着の病と判ぜられたり。俳諧はこれにかはり,無心所着を本意とおもふべし〉(《俳諧蒙求》)と,積極的にこれを肯定した。…
※「惟中」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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