俳諧用語。中国古代の哲学者荘子の寓言論を,〈源氏物語寓言説〉にならって俳諧に適用し,非論理の滑稽を事とする談林俳諧を理論的に裏付けようと試みたもの。主唱者岡西惟中(いちゆう)の《俳諧蒙求(もうぎゆう)》(1675)に,〈大小をみだり,寿夭をたがへ,虚を実にし,実を虚にし,是なるを非とし,非なるを是とする荘子が寓言(略)全く俳諧の俳諧たるなり〉とあり,日常的な価値観の逆転が生み出す滑稽を俳諧の本質とみたらしいが,上記に続けて〈しかあれば,思ふままに大言をなし,かいでまはるほどの偽を言ひ続くるを,この道の骨子と思ふべし〉と述べることからもうかがわれるとおり,惟中の寓言理解は表現の皮相にとどまっていたかに思われる。また寓言説に基づく惟中の俳論は,あまりにも衒学(げんがく)的で,現実への対応に欠ける面が大きかったため,世俗の人情を重んじる西鶴らの俳諧観とは相いれず,やがて確執へと発展した。
→虚実
執筆者:乾 裕幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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