改訂新版 世界大百科事典 「感熱感圧色素」の意味・わかりやすい解説
感熱・感圧色素 (かんねつかんあつしきそ)
熱や圧力の作用で酸と接触すると発色する色素。色素自体に感熱・感圧性があるのではない。感圧複写紙や感熱記録紙に利用されるが,両用とも色素はほぼ共通していて,使用される代表的な色素は,トリフェニルメタン-フタリド系(クリスタルバイオレットラクトン,略号CVL),フルオラン系,フェノチアジン系などである。これらの色素は,通常は無色または微着色であるが,酸性白土やフェノール樹脂,ビスフェノールAなどの固体酸と接触すると実用的な高濃度に発色し,その発色は複写・記録紙に十分適合するような耐光性,耐昇華性,耐溶媒性を備えている。
これらの色素は,ほとんどカルボニル基が結合したラクトン環をもち,分子構造は平面性に乏しいが,酸と接触するとラクトン環が開いて平面性の高い有色の色素となる。発色する色調は,色素の構造によって,黄色~赤色~紫色~青色~緑色,黒色とほとんどの色をカバーしており,堅牢度もかなり高いものに改良されている。感熱色素の使用形態には非可逆的なものと可逆的なものの2種類がある。前者はファクシミリやコンピューターの記録紙,自動発券システムなどに用いられる。後者は食品包装やデザイン商品などに用いられる可逆的熱変色材で,食品,飲料,ふろなどの適温や警戒温度が示される。これは,グリコールのような第三物質を加えておいて,色素が酸と接触して起きる反応を可逆的に制御するようにしたものである。
執筆者:新井 吉衞
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報