精選版 日本国語大辞典 「手向草」の意味・読み・例文・類語
たむけ‐ぐさ【手向草】
- 〘 名詞 〙 ( 「たむけくさ」とも )
- ① ( 「くさ」は種、料の意 ) 手向けにする品物。神や死者などに供える品。幣帛(へいはく)。ぬさ。
- [初出の実例]「白浪の浜松が枝の手向草幾代までにか年の経ぬらむ」(出典:万葉集(8C後)一・三四)
- ② 植物「さくら(桜)」の異名。《 季語・春 》
- [初出の実例]「他夢化草。桜。雲は猶立田の山の手向草夢の昔のあとの夕ぐれ」(出典:蔵玉集(室町))
- ③ 植物「まつ(松)」の異名。〔梵燈庵主袖下集(1384か)〕
- ④ 植物「すみれ(菫)」の異名。
- [初出の実例]「手向草 すみれぞ野にあるべし 花さかばこれを宮居に手向草一夜のうちに二葉とぞなる」(出典:莫伝抄(室町前))
- ⑤ 松の古木の幹や枝に生える地衣植物。松の苔。
- [初出の実例]「はま風になびきなれたる枝に手向草うちしげりつつ」(出典:道ゆきぶり(1371か))
手向草の補助注記
②③④のように、ある草木の異名に特定するのは、「莫伝抄」「蔵玉集」といった異名歌集に見える説で、それ以前に広く行なわれていた形跡は認められない。室町期の連歌師の知識と推定されるが、その根拠や当時における流布の程度は明かでない。