抵当標石(読み)ていとうひょうせき

改訂新版 世界大百科事典 「抵当標石」の意味・わかりやすい解説

抵当標石 (ていとうひょうせき)

ギリシア語のホロスhoros(複数形ホロイhoroi)の訳。ホメロスの詩ではこの語の古い形であるourosは公有地や私有地の境界標石の意味で使われているが,歴史時代には抵当に入れられた土地の境や家屋のそばに立てられた石柱で,そこには債務者・債権者の名と負債額が刻まれるのが通例であった。アテナイではソロン以前に借財によって土地が債権者の管理下に入ったことを表示する抵当標石が存在したが,ソロンは借財の帳消しによってこの抵当標石を取り去ったと伝えられる。ホロスが立てられる場合はいろいろあったが,債権者が債務者の土地に立てるのが典型的な場合であり,債務者は抵当に入れた財産を債権者の同意なしに処分することができないことになっていた。そのほかホロスが立てられるのは,夫が妻の嫁資(妻が夫のもとを去る時はこれを持って帰る権利があった)の保証のため与えねばならぬ財産の上に妻が立てる場合,孤児の世襲農地(孤児の財産はアルコンが賃貸しすることになっていた)を賃借りした人々の財産の上に立てられる場合,買戻し権を留保したまま売られた土地の上に立てられる場合などであった。アテナイでは前4世紀以降事実上の土地の移動が多くなったらしく,ホロスも比較的多く発見されており,ホロス碑文は当時の土地所有状況を知るのに不可欠の史料となっている。その研究によると,それは大土地所有成立の証拠ではなく,中小土地所有の優越という伝統的状況が本質的に変わったことを証明するものではないようである。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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