改訂新版 世界大百科事典 「排ガス処理」の意味・わかりやすい解説
排ガス処理 (はいガスしょり)
排ガスは,物の燃焼,合成,分解などの処理過程で発生するばい煙と,物の粉砕,選別など機械的処理過程で発生する粉塵および自動車などの内燃機関から排出されるものとに分けられる。大気汚染防止法では,ばい煙発生施設が32種類,一般粉じん発生施設が5種類,特定粉じん発生施設9種類に分類されている。排ガスの種類と発生量は,燃料,原料,製造品や製造工程によって異なり,排ガスの処理もそれらに応じてなされる。
ばい煙中に含まれる物質で問題になるのは主として硫黄酸化物SOxと窒素酸化物NOxである。SOxの排ガス処理である排煙脱硫方式は,排ガス中のSOxを液体または固体の化合物に変えて除去するもので,湿式法と乾式法がある。一般に実用化されているのはおもに湿式法で,これは排ガスを水酸化ナトリウムなどの水溶液と接触させて,排ガス中のSOxをセッコウ,亜硫酸ソーダ,ボウ硝,硫酸などの副生品として回収する方式であるが,相当量の淡水を使用すること,重量物であるセッコウなどを副生すること,排水処理が複雑なことなどに難点がある。また今後増加するであろう石炭燃焼に伴う処理では,石灰石やドロマイトを流動媒体とする流動床燃焼の脱硫効果が期待されている。NOxは,燃料中の窒素分と空気中の窒素分とが酸素と反応して生成される。燃焼中の対策にはバーナーの改善や二段燃焼,排ガス再循環があり,燃焼後には排煙脱硝法がある。排煙脱硝にも湿式法と乾式法があり,乾式法のうち選択接触還元法がもっともよく実用化されている。これは250~400℃の温度域で触媒を使い,アンモニアを注入して排ガス中の窒素酸化物を選択的に還元し,窒素と水とに分解する方法である。
ばい塵の処理には,電気集塵,音波集塵,遠心力集塵,ろ過集塵,洗浄集塵などがある。これらはばい塵の粒径と性状にあわせて採用される。
排ガス処理は,各種の装置を組み合わせて行うことが多い。1例として石炭火力発電所の排ガス処理システムを図に示した。処理後の排ガス濃度はさらに低下させることが可能であるが,それには政策的,社会的な誘導が必要である。なお,自動車の排ガス対策,規制については〈ガソリンエンジン〉〈ディーゼルエンジン〉〈自動車〉〈自動車排出ガス規制〉の項目を参照されたい。
執筆者:塚谷 恒雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報