ガソリンエンジン(読み)がそりんえんじん(英語表記)gasoline engine

翻訳|gasoline engine

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガソリンエンジン」の意味・わかりやすい解説

ガソリンエンジン
がそりんえんじん
gasoline engine

燃料として常温・常圧で液体であるガソリンを用いる火花点火の往復動内燃機関。作動方式により4行程機関と2行程機関がある。

[吉田正武]

歴史

4行程機関は2回転に1回爆発しサイクルを完結するもので、1862年にフランスのボー・ド・ロシャBeau de Rochas(1815―1893)が原理を提案し、1876年ドイツのニコラウス・アウグスト・オットーガス燃料を用いて実用化に成功した。2行程機関は1回転に1回爆発してサイクルを完結するもので、1881年にイギリスのデュガルド・クラークDugald Clerk(1854―1932)が空気、ガス燃料用の掃気ポンプを別にもつ形のものを実用化した。現在ガソリンエンジンで用いられる2行程機関は、クランク室に吸入した混合気をピストンの下降行程で圧縮し圧縮された混合気でシリンダーを掃気するもので、1891年イギリスのジョセフ・デイJoseph Day(1855―1946)によって実用化されたガスエンジンの子孫である。

 液体燃料で気化性の強いガソリンを燃料にする試みは、実用のガス機関をつくったフランスのジャン・ジョゼフ・エティエンヌ・ルノアールが最初で、燃料の自然蒸発で気化する表面気化器を用い、ガス機関をガソリンで運転した。その後いくつか試みられたが、ガス燃料の供給が困難な場合の代替燃料として使用され、機関も据付け型機関であった。

 1883年ドイツのゴットリープ・ダイムラーは小型・軽量の実用4行程ガソリンエンジンを開発した。吸入弁は自動弁で、排気弁は直接カム駆動の茸(きのこ)弁であった。点火は熱管型で、気化器は初め表面気化器であったが、すぐ霧吹き型になった。ダイムラーの機関は小型・軽量で、単位重量当りの出力も大きく車両用に適していたので、ダイムラーは1886年自動二輪車を開発し、さらに自動車にも用いた。また同じころドイツのカール・ベンツは電気火花点火の4行程ガソリンエンジンを開発し、初めから自動三輪車に用いた。その後ガソリンエンジンはフランスで発展し、高圧電気火花点火方式を採用し、小型・軽量・高速の自動車用機関として発達した。19世紀末から20世紀の初めにかけて、機関の多気筒化、カム軸駆動の吸排気弁にそれぞれカム軸をもつ頭上カム軸方式、一つのシリンダーに吸排気弁を二つずつもつ四弁式などがつくられ、1930年代には現在のガソリンエンジンの機構はほとんどすべて開発された。その後、細部の研究による改良と新しい材料の開発、制御方法の進歩によって熱効率向上・小型軽量化を続けており、1970年ごろから排気清浄化の研究が進められて、20世紀末ごろにはほぼ達成された。さらに温暖化対策のCO2排出量低減に向かって研究開発が進められている。2行程機関では吸排気管内の気体振動が出力に大きな影響を与え、掃気流の研究とともに大幅な出力向上をみたのは1950年代以降である。しかし、排気浄化が困難であり、1970年以降小型のエンジンを除き使用されなくなった。

[吉田正武]

構造

機関本体はシリンダー、シリンダーヘッド、ピストン、コネクティングロッド(コンロッドともいう)、クランク軸、はずみ車、カム軸、吸排気弁機構、カム軸駆動機構などからなる。潤滑油圧送ポンプ、点火装置、水冷の場合の冷却水循環ポンプをカム軸駆動機構かクランク軸により駆動している。

 燃料供給系は気化器式と燃料噴射式に分かれる。気化器式では燃料ポンプで送られた燃料が燃料フィルターを通ってフロート室に供給され、霧吹きの原理で微細な粒にされ、気化混合する。ガソリンは燃焼可能な空気との混合割合の範囲が狭いので、気化器には絞り弁があり、空気量を調整して出力を制御する。広い出力範囲で空気と燃料の混合割合が一定になるように、可変ベンチュリー型、多段固定ベンチュリー型がある。しかし、とくに自動車用では排気清浄化を達成するには精密な燃料供給制御が必要になり、気化器は使用されなくなった。燃料噴射式の大部分は、吸気弁直前に計量された燃料を定時に噴射するもので、2気圧程度に燃料を圧縮するポンプ、調圧器がある。噴射ノズルは、噴射時間を電気的に調整するもので、燃料量は空気流量、空気温度、圧力、冷却水温度などを用いてコンピュータ制御で最適な状態に制御される。この場合は空気流量計測部分の後ろに一つの絞り弁をもつのが普通である。多気筒機関では吸気多岐管で混合気か空気を分配する。21世紀に入ったころより、さらに厳しくなった排気清浄化とCO2排出量低減のために、計量された燃料を毎サイクル確実に供給するためと成層燃焼を行うためにシリンダー内に直接噴射する方法が広まっている。点火装置は、シリンダーに吸入された混合気を点火させるもので、通常は高圧の火花放電を用いる。蓄電池、感応コイル、断続器、配電器、点火栓からなり、小型機関では蓄電池のかわりに発電機を使用するものもある。1970年代ごろから排気清浄化などのため、点火時期も運転状態に合わせて制御されている。

 潤滑装置はピストンとシリンダーの間、各ベアリングなどに潤滑油を送る部分で、油ポンプ、油フィルター、油溜(あぶらだめ)からなり、油冷却器をつける場合もある。冷却装置は、機関が正常な運転を継続できるようにするもので、水冷式では水循環ポンプ、ラジエーター、温度調整器からなり、空冷式では直接駆動の冷却ファンからなり、シリンダーなどにフィンをつける。どちらも過冷却を防止するくふうがなされている。

[吉田正武]

『富塚清著『動力の歴史――動力にかけた男たちの物語(新装版)』(2008・三樹書房)』『John Robert DayEngines ; The Search for Power(1980, The Hamlyn Publishing Group Ltd.)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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