新交通システム(読み)しんこうつうしすてむ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「新交通システム」の意味・わかりやすい解説

新交通システム
しんこうつうしすてむ

在来の一般の鉄道が、鋼鉄製のレールの上を鉄の車輪によって走行する方式であるのに対し、新交通システムは、ゴムタイヤ車輪によって専用軌道を走行する公共交通機関である。広義には最近の新技術開発によって誕生した種々の方式の交通システムを包含してとらえる場合もあるが、狭義には、日本でいうと東京の臨海地区を走っている「ゆりかもめ」(東京臨海新交通臨海線)や大阪市の「南港ポートタウン線」(ニュートラム)、神戸市の「ポートアイランド線」(神戸新交通)のように、ゴムタイヤ車輪によって案内レールに沿って走行する方式の鉄道をさしている。日本の法規上(鉄道事業法など)ではJRや一般の私鉄のような粘着方式の鉄道を普通鉄道、ゴムタイヤ車輪と案内レールによって専用軌道を走行する新交通システムのような鉄道を案内軌条式鉄道automated guideway transit(AGT)としている。

 新交通システムの輸送力は1時間当り5000~1万5000人くらいであり、バスよりは多く、高速鉄道よりは少ない、中量輸送機関としてとらえられている。

[吉川文夫]

沿革

新交通システムは都市交通システムの新しい構築を考えたアメリカ政府の1968年の報告書「Tomorrow's Transportation(明日の輸送)」での指摘に始まるとされている。1972年首都ワシントンDCで開催された交通博覧会トランスポ'72で4種類の新交通システムが出展され、その2年後の1974年にテキサス州ダラス・フォートワース空港の空港内連絡輸送機関として新交通システム、エアトランスが開通した。続いて1975年にはウェスト・バーニジア州の学園都市モルガンタウンにおいて、ウェスト・バージニア大学のキャンパス間を移動する学生のため、パーソナル・ラピッド・トランジットPersonal Rapid Transit(PRT)と称する新交通システムが開通した。

 日本では1970年代通商産業省(現、経済産業省)、建設省(現、国土交通省)で研究開発が推進されるなか各メーカーが試作開発に乗り出し、1975年(昭和50)に沖縄で開催された国際海洋博覧会で神戸製鋼所、神鋼電機などのグループによるKRT(Kobe Rapid Transit)と、財団法人機械システム振興協会のCVS(Computer Controlled Vehicle System)が、博覧会の開催期間中という限定した期間であるが、乗客輸送を行った。このほか、遊園地の遊戯施設としてではあるが日本車輛(しゃりょう)製造などが開発したVONA(ボナ)(Vehicles of New Age)が京成電鉄沿線の谷津(やつ)遊園内で1972年に走っている(1982年谷津遊園廃止に伴い廃止)。

 恒久的輸送機関としての最初は1981年2月に開業した神戸新交通のポートアイランド線で神戸の繁華街三宮(さんのみや)から神戸港の人工島を一回りする営業キロ6.4キロメートルの路線で、おりから開催された博覧会ポートピア'81の会場への足として活躍した。その後、1981年3月に大阪市でニュートラム、1982年11月に千葉県で山万ユーカリが丘線、1983年12月に埼玉新都市交通、1990年(平成2)2月に神戸新交通六甲アイランド線、1991年3月に愛知県で桃花台(とうかだい)新交通(2006年10月廃止)、1995年11月に「ゆりかもめ」、2008年3月日暮里・舎人(とねり)ライナーなどがそれぞれ開業している。

 現在世界的にみると新交通システムは都市の中量輸送機関と大きな空港の空港内連絡輸送機関として運行されているものが多い。そしてその構造、方式については新しい方式のものが続々と誕生してきており、この流れは今後も続くものと思われる。

[吉川文夫]

案内軌条式のメカニズム

種々の方式がある新交通システムのうち、実用例の多い案内軌条式のメカニズムについて触れておきたい。

 案内軌条式はコンクリート製の凹形をした軌道をゴムタイヤの車輪によって走行するが、走行車輪とは別に案内用の車輪があり、これが案内レールによってガイドされて走る。この案内レールの配置によって、側面にある側方案内方式と中央にある中央案内方式に分けられる。日本では側方案内方式が多く、神戸新交通、ゆりかもめ、大阪市のニュートラムなどが採用している。中央案内方式は千葉県の山万ユーカリが丘線が採用している。一般の鉄道でいうポイント、線路の分岐は側方案内方式では案内車輪が軌道に設けられた可動案内板によってガイドされて所定の進路方向に進むので、軌道を見ても鉄レールのポイントのような分岐部は見当たらない。車両は小型の2軸車を連結して運転しているが、車輪は車体に拘束されておらず、自動車の前輪のようにステアリング(ハンドル操作)できるのが一般的である。

 走るための動力は電気であるが、架空電車線はなく、軌道の側面に設けられた電車線から小型の集電装置で集電してモーターによって車輪を駆動している。電圧は直流750ボルトか三相交流600ボルトが標準である。列車の運転は自動列車運転装置(ATO)による無人運転かワンマン運転である。無人運転の車両でも異常時などに備えて運転台を設備しているが、通常時はカバーで覆われている。ブレーキを含めた運転制御は二重系としており、一系統がトラブルをおこしても安全であるようにシステムが組まれている。これらの運行管理は、駅の案内放送およびホームドアも含めて中央指令所のコンピュータで列車の運転状態などを監視しながら制御されていることが多い。

[吉川文夫]

広義の新交通システム

広い意味での新交通システムとしてとらえられている方式のうち、おもなものを次に紹介する。

[吉川文夫]

懸垂式モノレール

ロープウェーに近いモノレールといえる構造で、鋼製の軌道桁(けた)に走行輪と案内輪が接して走るが、中間部では軌道桁に張られたロープをつかんで走行、駅から出発するとき、停車するときはリアクションプレートという地上側に設けられたコイルの電磁力により加速、減速する方式である。したがって車両には動力はなく、ロープは地上の滑車の回転により動いている。広島市のスカイレールサービスがこの方式である。

[吉川文夫]

ガイドウェーバス

専用の走行路(ガイドウェー)を案内装置によって走行するバスで、案内輪を車両に取り付けている。このため運転士はハンドル操作を必要としない。車両は一見、バスと変わらないが、内燃動力(ディーゼルエンジン)の案内軌条式鉄道に含まれている。専用の走行路だけでなく、一般道路での運行が可能。2001年3月に名古屋市内に名古屋ガイドウェイバス(ゆとりーとライン)として開業している。

[吉川文夫]

空気浮上・ロープ牽引式

車両に供給された電源で送風機を回転させ、車両の底部から空気を吹き出して浮上させ、この車両をロープで引っ張って走行させる方式で、車両の片方に設置された案内レールでガイドされる。成田国際空港第2旅客ターミナルビル内の本館とサテライトを結ぶシャトルシステムとして走っている。

[吉川文夫]

磁気ベルト式システム

磁石を取り付けた平ベルトを回転させ、車両に取り付けた磁石を吸着走行するものである。1990年大阪で開催された国際花と緑の博覧会で運転されたことがあったが、2001年これと近い方式のモノレールが中央本線猿橋駅(山梨県大月市)と住宅団地を結ぶ交通システム、シャトル桂台として運行していた(2007年廃止)。

 このほか海外では電車線を路面に埋設設置しゴムタイヤ車輪で走る架線レスタイヤトラムや、道路に設置されたガイドレールを斜め上から挟み、ゴムタイヤ車輪で走行するガイドゴムタイヤトラムなどが試行実験されている。都市路面交通については環境問題が大きく取り上げられている時期なので、内燃動力にかわる新しい公共交通が各種検討されるようになると思われる。

[吉川文夫]

日本の現状

国土交通省の鉄道事業の所管にある新交通システムでは、山万ユーカリが丘線、埼玉新都市交通、西武鉄道山口線、ゆりかもめ、横浜新都市交通、大阪市南港ポートタウン線、神戸新交通、広島高速交通、スカイレールサービス、名古屋ガイドウェイバスなどがある。

 このなかでスカイレールサービスとゆとりーとライン以外は電気動力によるゴムタイヤ車輪の案内軌条式鉄道となっている。新交通システムは企業体としてみると県や市などの地方自治体が地元企業、金融機関などと共同出資した第三セクターが多いのが特徴である。特異な例としては土地開発事業者が住宅地の足として敷設した山万株式会社のユーカリが丘線がある。この線はコスト低減を意図してシステム全体が簡易にまとめられていることにも特徴がある。

 輸送人員の多い東京の「ゆりかもめ」は1日平均利用者数が9万8000人(2010年度)で、東京臨海地区の輸送機関として車窓からの眺めもよいことから人気を博している。

 2006年に廃止となった桃花台新交通は、走行方法がユニークであった。終端駅がループ線になっていて、車両は折り返すことなく、ループを一回りして方向を転換し、このため正規の運転台は先頭車にしかなく、客用扉もバス並みに片側であった。

[吉川文夫]

『吉川文夫著『新交通システム』(1990・保育社)』『斎間亨著『新交通システムをつくる』(1994・筑摩書房)』『石坂悦男・渡部与四郎編著『地域社会の形成と交通政策』(1997・東洋館出版社)』『都市交通研究会著『新しい都市交通システム』(1997・山海堂)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「新交通システム」の意味・わかりやすい解説

新交通システム
しんこうつうシステム

広義には,鉄道,船舶,自動車,航空機といった通常の交通機関ではなく,新たに開発された交通手段,たとえばモノレールエアクッション艇動く歩道,リニアモータカー,磁気浮上鉄道などを含む総称。狭義には,省エネルギー,経費節減をはかりつつ,快適で機動性のあるサービスを提供する目的で開発された都市型交通機関の組合せをいう。通常,次の4種類に分けられる。 (1) 連続輸送システム 連続して人員を輸送できる方式 (動く歩道はその一例) で,大量の人の流れのあるところに適するが,低速であるため短距離輸送が主体となる。 (2) 軌道輸送システム 既存の高架鉄道よりも小型・軽量化した車両を使って建設コストを下げ,輸送需要に応じて連結両数を自由に調節できるようにする。 (3) 無軌道輸送システム 一般の道路を利用しながら,自動車交通量や乗客数などの情報を的確に把握し,これをコンピュータで処理して最適な運行管理をすることにより,乗客へのサービスと運営者にとっても最も効率のよい運行をしようとするもので,デマンドバスシステム,シティカーシステムなどがある。 (4) 複合輸送システム (2) と (3) を組合せたもので,デュアルモードバスと総称される。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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