日本大百科全書(ニッポニカ) 「新生児呼吸障害」の意味・わかりやすい解説
新生児呼吸障害
しんせいじこきゅうしょうがい
respiratory distress of the newborn
新生児期におこる特異的な呼吸障害としては、肺サーファクタント産生能の未熟性に起因する呼吸窮迫症候群(RDS)、肺の構築学的未熟性に起因するウィルソン‐ミキティWilson-Mikity症候群、さらに呼吸中枢の未熟性に起因する無呼吸発作、出生時に胎便を吸引しておこる胎便吸引症候群、そのほか生まれつきの呼吸器系の異常である横隔膜ヘルニアや肺低形成症などがある。もっとも頻度の高い疾患は、胎児期の肺水(肺の中に入っている水)が出生後に速やかに吸収される過程が遅延する新生児一過性多呼吸症であり、予後は良好で、多呼吸を主とした呼吸障害が生後数日間続く。湿った肺wet lungともよばれ、出生時におこるべき胎外生活への適応が遅れた適応不全症候群の一つと考えられている。
これらのうち、もっとも重要な疾患は未熟児におこる呼吸窮迫症候群であり、症状はチアノーゼ、多呼吸、陥没呼吸(吸気時に胸が陥没する)、呻吟(しんぎん)(うめく)などである。生後まもなく発症し、数時間内に著明に悪化する。従来は死亡率が高かったが、近年の肺サーファクタント注入療法や人工換気法などの進歩により多くは後遺症なく生存するようになった。肺サーファクタントとは、肺胞細胞より分泌される界面活性物質であり、肺界面活性物質ともいう。肺サーファクタント注入療法は、岩手医科大学の藤原哲郎(1931― )によって世界で初めて人間に応用された治療法で、ウシ由来の人工肺サーファクタントを直接新生児の気管内に注入する。
[仁志田博司]