日本大百科全書(ニッポニカ) 「旺文社」の意味・わかりやすい解説
旺文社(株)
おうぶんしゃ
1931年(昭和6)赤尾好夫が設立した出版社。初め欧文社と称し、受験生を対象とする英語、国語、漢文などの通信添削会から出発し、やがて『螢雪(けいせつ)時代』『高二時代』『高一時代』と雑誌を発刊していき、『英語基本単語熟語集』(通称豆単(まめたん))できわめて多くの受験生に知られる出版社となった。第二次世界大戦中の42年、時勢を反映して社名を旺文社と改め、戦後は出版のみならず、いち早く1952年(昭和27)にラジオ番組「大学受験講座」の放送も開始し、同社を受験もの出版社のトップの座に押し上げた。小・中・高校生向けの参考書や受験雑誌に加えて『学芸百科事典』(エポカ)や『エッセンシャル英和辞典』なども刊行。1965年(昭和40)「価値あるものを読みやすく」提供しようとして発刊した旺文社文庫は、若い読者層を中心に普及した。82年4月には「見る」科学雑誌『OMNI(オムニ)』を創刊した(89年休刊)。
一方、出版事業で得た資金でラジオ局、テレビ局設立に出資、積極的に放送事業に取り組み、テレビ朝日、フジテレビ、文化放送の大株主となった。1984年に故赤尾好夫の長男一夫、89年(平成1)に次男文夫が社長に就任後、同社の出版事業は市場の縮小もあってかつての勢いを失った。「大学受験講座」も受験産業とメディアの多様化から、95年に放送が打ち切られた。1948年(昭和23)から全国規模で実施され、2700校が参加していた大学志願者向けの模擬試験も、2000年度末で取りやめることが決定され、全社的な経営立て直し策が発表された。また、1996年(平成8)にはテレビ朝日株売却に絡んで多額の脱税事件が起きた。
[海老原光義・小林一博]