ギリシア伝説の女魔法使い。その名は〈狡猾な女〉の意。コルキス(カフカス山脈の南方,黒海に臨む地方)の王アイエテスAiētēsの娘。太陽神ヘリオスの孫娘で,キルケの姪にあたる。イアソンが叔父のイオルコス王ペリアスPeliasのいいつけで金毛羊皮を捜しにコルキスに来たとき,イアソンに恋したメデイアは彼を助けて羊皮を手に入れさせ,彼に伴われてギリシアに向かった。二人がイオルコスに来てみると,イアソンの父アイソンAisōnはペリアスのために自殺させられていたので,彼女はペリアスの娘たちに羊を釜ゆでにして若返らせて見せ,同じ方法で娘たちに父王を殺させた。二人はコリントスへ逃げ,同地で2児をもうけたが,イアソンが王クレオンKreōnの娘を新妻に迎えたため,彼女は王と王女,さらにはわが子をも殺してアテナイ王アイゲウスのもとに逃れた。ここでアイゲウスの妃となった彼女は王子テセウスを毒殺しようとして果たさず,王との間にできた一子メドスMēdosを連れてアジアへ逃げ帰った。のちにメドスはメディア(ペルシア)人の名祖となったという。メデイアの話に取材した文学作品には,古代ではエウリピデス,セネカの悲劇(《メデイア》),ロドスのアポロニオスの叙事詩《アルゴナウティカ》,近代以降ではコルネイユ,グリルパルツァー,アヌイの戯曲など,音楽にはケルビーニの歌劇がある。また1969年,パゾリーニ監督,マリア・カラス主演の映画《王女メディア》が製作された。
執筆者:水谷 智洋
ギリシア三大悲劇詩人の一人エウリピデスの作品。前431年上演。1419詩行からなり,その筋は以下のとおり。黒海の都コルキスの王女メデイアは亡命の地コリントスにおいてギリシア人の夫イアソンに裏切られ,悲嘆と怒りのあまりイアソンの花嫁グラウケとその父クレオンを猛毒を浸みこませた織布によって焼殺する。またイアソンとの間に生まれた2人の男子をもみずからの手で殺害して夫に対する報復とし,太陽神の使わした飛翔車に身を託してアテナイへ逃亡する。女主人公メデイアの断腸の独白が中核をなし,エウリピデスの〈激情劇〉の代表作とされる。メデイアの子どもたちの伝説は種々コリントスに伝わっていたが,メデイアみずからの殺害行為は,エウリピデス独自の創作と目される。メデイア伝説はヘレニズム時代の叙事詩人アポロニオス,ローマ帝政期の詩人オウィディウス,セネカ,ウァレリウス・フラックスらによっても取り上げられており,古代壁画の画題ともなっている。
執筆者:久保 正彰
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ギリシア神話の魔女。黒海の東、コルキスの王アイエテスの娘で、太陽神ヘリオスの孫。魔女キルケの姪(めい)でもある。メデイアは、アルゴ船に乗り組んだ英雄たちが、コルキスのアレス神の森で竜に守られている金の羊毛皮を奪いにきたとき、彼らのリーダーであるイアソンに恋をする。父アイエテスは、火を吐く牛で畑を耕し竜の牙(きば)を蒔(ま)けとイアソンに難題を課したが、彼女は彼に火除(よ)けの秘薬と、竜の牙から生じる戦士を滅ぼすための秘策を授け、さらに竜を眠らせて金の羊毛皮を盗み出してやった。そうしてイアソンの妻になりギリシアへ逃げるが、彼女は追っ手の船が迫ったとき、連れてきた弟アプシルトスの体を切り刻んで海上にばらまき、追っ手にそれを拾い集めさせ、船足を遅らせた。そしてイアソンの故国イオルコスに着くと、イアソンの父の仇敵(きゅうてき)ペリアスを魔法で殺した。このため彼女とイアソンは、国を追われてコリントスに逃げることになる。
のちにイアソンは、コリントス王の婿となってメデイアを捨てるが、そのとき彼女は夫との間にもうけた二児を虐殺して夫の新しい花嫁をも焼き殺す。そして竜車に乗ってアテナイ(アテネ)に逃れ、そこの王アイゲウスの妻となってメドスを生む。また、アイゲウスが他国で生ませた子テセウスが父子の対面を求めてやってきたとき、メデイアは彼を毒殺しようとして阻止され、祖国コルキスに逃げ帰る。メドスは、メディア人の名祖となった。
メデイアの物語は、ロドスのアポロニオスの『アルゴナウティカ』、エウリピデスの『メデイア』などに詳しく語られ、近代にはコルネイユの『メデ』、グリルパルツァーの『金羊毛皮』などの翻案がある。
[中務哲郎]
古代ギリシアの悲劇作家エウリピデスの悲劇。紀元前431年初演。アルゴ船物語の後日譚(ごじつたん)を素材とする。
コルキスの王女メデイアは愛するイアソンのために故国を棄(す)て、ペリアス殺しまで犯すが、コリントスに落ち着いたイアソンは蛮族出身の妻を厭(いと)い、王クレオンの娘クレウサとの結婚を策す。棄てられたメデイアは、その復讐(ふくしゅう)に新しい花嫁とその父親を殺し、またイアソンを苦しめるべく自分たちの子供をも殺して、自らはアテネへ逃亡する。
夫への復讐のため子供を殺すべきか否か逡巡(しゅんじゅん)のあげく、ついに情念(テューモス)の力に負けて殺すくだりは詩人の創作とされるが、ここからこの劇は「情念(テューモス)の悲劇」と称されてもいる。人間の内面の悲劇的葛藤(かっとう)を描くのを旨としたこの詩人にふさわしい代表的傑作である。
[丹下和彦]
『中村善也訳『メデイア』(『世界文学大系1』所収・1959・筑摩書房)』▽『呉茂一・松平千秋他訳『エウリピデス篇I』(『ギリシア悲劇全集3』所収・1960・人文書院)』
イラン高原北西部に紀元前8世紀初期、アーリア民族の一系統メディア人の建てた王国をいう。メディア人はもともとマダの国の人々とよばれるウルミア湖(イラン北西部)周辺に住む遊牧民で、前835年アッシリア王シャルマネセル3世の記録に初めてその名が登場する。建国者はエクバタナに首都を定めたディオケスとされているが、王国の体制はその子フラオルテスが築いた。アッシリアの攻撃をたびたび受け、次王キャクサレスの時代には南下してきた遊牧民スキタイに服した。約30年後キャクサレスはスキタイを倒し、前612年にはバビロニア王ナボポラサルと同盟してアッシリアを滅ぼした。その結果メディアはイランの大部分を領有する大国になった。その後、隣国リディアとの戦いが起きたが、前585年に和平が結ばれ終結した。しかし次王アスティアゲスは前549年アケメネス朝ペルシアのキロス2世に敗れ、メディアは滅亡し、ペルシアの属州となった。
[吉村作治]
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イラン北部,カスピ海南西部の山地。前2千年紀にインド・ヨーロッパ系の遊牧民メディア人が占拠し,前8世紀末に王国を建てた。第3代キャクサレスは新バビロニアと協力して前612年ニネヴェを陥れ,アッシリアを滅ぼしてバクトリアからカッパドキアに至る広大な領土を占めたが,次の王アステュアゲスは前550年アケメネス朝のキュロス2世に殺されて王国は滅んだ。
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… 以下,コミュニケーション一般と各論について述べるが,言語的コミュニケーションの中心たる〈言語〉をはじめ,〈記号〉〈象徴〉などについてはそれぞれの項目を参照されたい。
【コミュニケーションの前提】
[メディア]
人間が社会的に意味ある情報を伝達したり受け入れたりするためには,いくつかの条件がある。心の中の印象や意図は無媒介的に受け手には伝わらない。…
… こうしていわゆる〈肖像写真〉は転機を迎えて,いわゆる記念写真,家族写真なども含めた広義の〈記録写真〉一般の中に融合されてゆくのだが,しかしいうまでもなく,今日においても肖像写真は個人を同定する視覚物として,またある意味でその存在自体を示し得る視覚物として,決して意味を失ってはいない。たとえば毎日の新聞紙上をにぎわす写真の大半は顔写真を含めた人物写真で占められているし,また結婚式や成人の日など,人生の結節点には必ず撮影される人物を中心に置いた記念写真,あるいは親しい者のあいだで少なからず行われているであろう肖像(顔)写真の交換,さらには,歴史的にはブロマイドに始まり,今日では種々のメディアを通じてはんらんしている他者(芸能人,有名人)の肖像など,これらは種々の別な要素を含むものではあるものの,大枠としては上述の肖像写真の系譜の中に位置づけることができるものであろう。
[記録写真の系譜]
写真の最も基本的な性質をあげるならば,それは記録機能であろう。…
…そこに王の与える竜の歯を播き,生まれ出る武装の勇士たちを討ち果たすことであった。二つとも,イアソンに恋した王女メデイアの魔法の薬と助言とでなし終えたが,王は金羊毛を渡そうとしないので,これを守る百目の竜をやはりメデイアの助力で眠らせ,やっと手に入れることができた。遠征隊はメデイアとその弟とを伴って帰航の途につく。…
…成人後,国に戻ってペリアスに王国返還を求めると,東方の蛮地コルキスから金毛羊皮を持参せよと命じられた。そこで彼は大船アルゴを建造,全ギリシアの名だたる英雄たちを率いてコルキスを訪れ,同地の王の娘で魔女のメデイアの助けを借りて羊皮を入手,彼女を伴って帰国した。しかしこの間にアイソンはペリアスに殺されていたので,父の仇を討ってコリントスに逃れた。…
…その後,彼女はオデュッセウス一行を1年間歓待したが,彼らが帰国を望んだので,その方途を教えて島を去らせたという。またロドスのアポロニオスの叙事詩《アルゴナウティカ》では,姪のメデイアがアイアイエに立ち寄ったとき,彼女はメデイアが弟のアプシュルトスを殺した罪をきよめてやっている。アイアイエは後代にはイタリアのラティウム地方のキルケイ岬を指すと考えられた。…
…そこに王の与える竜の歯を播き,生まれ出る武装の勇士たちを討ち果たすことであった。二つとも,イアソンに恋した王女メデイアの魔法の薬と助言とでなし終えたが,王は金羊毛を渡そうとしないので,これを守る百目の竜をやはりメデイアの助力で眠らせ,やっと手に入れることができた。遠征隊はメデイアとその弟とを伴って帰航の途につく。…
…彼の作品は92編あったと伝えられるが,現存作品はサテュロス劇《キュクロプス》と偽作《レソス》を含めて19編である。そのうち上演年代が確定している作品は,《アルケスティス》(前438),《メデイア》(前431),《ヒッポリュトス》(前428),《トロイアの女》(前415),《ヘレネ》(前412),《オレステス》(前408)である。他の現存作品は《ヘラクレスの子ら》《アンドロマケ》《ヘカベ》《救いを求める女たち》《ヘラクレス》《イオン》《エレクトラ》《タウリケのイフィゲネイア》《フェニキアの女たち》,そして遺作《バッコスの信女》と《アウリスのイフィゲネイア》であるが,これらは皆《メデイア》以後に上演されている。…
※「メディア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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