有限数学(読み)ゆうげんすうがく(英語表記)finite mathematics

日本大百科全書(ニッポニカ) 「有限数学」の意味・わかりやすい解説

有限数学
ゆうげんすうがく
finite mathematics

有限数学という名称が使われ始めたのは、そう古いことではない。有限数学の大略の意味は、無限集合が表面に出ていない数学のことである。簡単な例をあげれば、順列組合せの問題や、おこりうる場合の数が有限個の場合の確率の問題などは有限数学の範囲である。また微分積分学は、実数の集合についての極限の考えがもとになっているから有限数学ではない。有限群理論、有限体の理論は有限数学である。

 以前は数学の応用というと、微分積分学をもとにした応用解析学主流であった。そして有限数学的問題は、その解法が個々別々で系統的取扱いが困難ということもあって、数学というよりむしろパズル的興味の対象であった。ところが、近年、オペレーションズ・リサーチの研究、および計算機の研究の発展に伴って生まれてきた新しい数学――たとえば、グラフ理論線形計画、符号理論、組合せ理論、計算の複雑さの理論など――のなかには、多くの有限的な問題が定式化され、その解決が強く要請されるようになった。そして多くの学者が、この型の問題に興味をもつようになり、優れた成果が得られるようになった。

 このような事実背景として、有限的問題の重要性が強調されるようになり、有限数学ということばが使われるようになった。

 有限数学の問題は有限数学の範囲内で解決されるものもあるが、そうでないものも多い。解析学は有限数学ではないが、有限数学の問題で解析学を用いて解が求められる例は非常に多い。簡単な例として、フィボナッチ数列
 a1=1,a2=1,an=an-1+an-2
  (n≧3)
をあげる。一般項anを求めるのに
 f(x)=a1+a2x+a3x2+……+an
  xn-1+……
と置いてf(x)=(1-x-x2)-1を導き、右辺を展開してxn-1係数としてanを求める方法である。このような例は多くある。

古屋 茂]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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