日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
オペレーションズ・リサーチ
おぺれーしょんずりさーち
operations research
略称OR。一般には「システムの運用に関する問題に、科学的な方法・技法および用具を適用して、これを管理する人々に最適の解を提供すること」(C・W・チャーチマン)と定義される。
ORは、第二次世界大戦中、イギリス、アメリカで軍事問題解決の技法として発展した。レーダー網の配置、損害を最小にする護送船団の編成と運航、潜水艦捜索活動の改善、効果的爆撃のための編隊の構成と運用、日本の特攻機による被害を最小化するための艦艇別回避運動の決定などが具体的成果であった。このようにORは軍事活動に関する作戦(オペレーション)上の意思決定技法として発展してきたが、目標内容を置き換えれば、あらゆるシステムもしくは組織体に適用することが可能である。前出の定義は、このようなORの普遍性を表しているが、競争という比較的軍事活動に近い活動を行う企業で、そののちORの適用は目覚ましい進展をみせることになった。
意思決定技法としてのORは、いくつかの特徴をもっている。第一の特徴は、システムズ・アプローチをとり、意思決定を必要とする状況をシステム的に把握することである。システムとは、共通目的をもった諸種の要素や部分の集合をいう。諸要素、諸部分は相互作用関係にたっているが、利害が背反したり、立場が異なるのがむしろ普通である。ORは、このようなシステムについて、部分的な最適化ではなく、共通目的の観点から全体的な最適化を図ることを意図している。第二の特徴は、学際的アプローチをとり、いろいろな分野の専門家もしくは専門知識を広く結集した問題解決を意図していることである。新しい問題状況には、特定の専門分野からのアプローチ(接近方法)のみでは最適の解決法がみつけられず、あるいは問題の内容そのものが正確に把握できないことが多い。ORは、たとえば経済学、数学、工学などの成果を結集した新しい発想を多用し重視する。第三の特徴は、科学的アプローチをとることである。科学的アプローチは、まず現状分析によって問題の所在を明確にし、問題を数式モデルとして定式化する。このモデルは、意思決定の良否を評価する尺度を定め、意思決定者のコントロールの可能な変数と不能な変数とを区別し、各変数を評価尺度に結び付ける特定の関数関係の形で定式化するという順序でつくられる。このモデルについて、解析的方法、シミュレーションのような実験的方法、数値解析などによって解を求め、解の評価ののちに特定の解を選択し、実施に移るのである。近年では、モデルを構成し、解を求め、評価し、選択する過程にコンピュータを多用するのがむしろ普通である。
ORの代表的な手法とそれらの応用分野例を列挙すれば、次のようなものがある。
(1)数学的計画法 これは資源制約のもとで特定の目的関数の値を最適化しようとするものであり、生産計画、輸送計画などに用いられる。問題状況に応じて、線形計画法、整数計画法、二次計画法、非線形計画法などが適用される。
(2)ビジネス・ゲームに代表されるゲームの理論。
(3)適正な在庫水準を維持するための最適発注量および発注時点の決定を中心とした在庫モデル。
(4)パート(PERT)ないしネットワーク理論 大規模プロジェクトの計画と管理に使用される。
(5)待ち行列理論 空港や港湾のようにサービス待ちが生じる問題に適用される。
(6)大規模なシステムの分析や不確定要素を含む問題の分析のためのシミュレーション。
(7)時間要素を含んだ動的システムについて最適解を求めるダイナミック・プログラミング。
(8)投資決定に典型的にみられるように、年金計算を応用するもの。このほか、情報理論や記号論理をORに含める見方もある。
[森本三男]
『C・W・チャーチマン、R・L・エイコフ、E・L・アーノフ著、森口繁一監訳『オペレーションズ・リサーチ入門』(1960・紀伊國屋書店)』▽『OR事典編集委員会編『OR事典』(1975・日科技連)』▽『小林三郎著『経営数学』改訂版(1995・高文堂出版社)』