東・吾妻(読み)あずま

精選版 日本国語大辞典 「東・吾妻」の意味・読み・例文・類語

あずま あづま【東・吾妻】

〘名〙
① 東の方。東方
※古事記(712)下・歌謡「上(ほ)つ枝は 天を覆(お)へり 中つ枝は 阿豆麻(アヅマ)を覆へり 下(し)づ枝は ひなを覆へり」
② 都から東の方の諸国の称。東国。時代や文献によってその範囲が異なる。広くは東海道、東山道以東陸奥国までもいったが、奈良朝以降次第に現在の関東地方を指すようになった。
万葉(8C後)一八・四〇九七「すめろきの御世さかえむと阿頭麻(アヅマ)なるみちのく山に黄金花咲く」
鎌倉、室町時代に、京都から特に鎌倉または鎌倉幕府を指していう。→東の主(あるじ)
※十六夜日記(1279‐82頃)「あづまにてすむ所は、月かげのやつとぞいふなる」
④ 江戸時代、上方から特に江戸を指していう。
※浮世草子・傾城色三味線(1701)京「折ふし吾妻(アヅマ)の大臣始て上方見物に上られしを」
※十巻本和名抄(934頃)一「辺鄙 文選云蚩胘辺鄙〈師説辺鄙 阿豆万〉世説注云東野之鄙語也〈今案俗用東人二字、其義近矣〉」
⑥ 「あずまごと(東琴)」の略。
源氏(1001‐14頃)若紫「あづまをすがかきて、常陸には田をこそ作れといふ歌を、声はいとなまめきてすさび居給へり」
※雑俳・若とくさ(1790)「ざんぶりとあづまねだって居る雪踏」
[補注]⑤はあるいは「十巻本和名抄」の誤記か。
[語誌](1)元来は東を示す普通名詞だが、都より東方の諸国を指す用例が多い。「万葉集」の東歌など上代文献には現在の関東地方を指すものや、より広く現在の長野県・静岡県・岐阜県や東北地方を指すものもある。
(2)平安京への遷都によって範囲が変動し、現在の三重県をも含めて、都から東方への道筋、東海道・東山道の諸国を指し、鎌倉時代以降は、京・上方に対峙する地域として、鎌倉や江戸を指していうようになった。

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