林業地代(読み)りんぎょうちだい(英語表記)forest rent

日本大百科全書(ニッポニカ) 「林業地代」の意味・わかりやすい解説

林業地代
りんぎょうちだい
forest rent

原理的には、土地(林地)所有者、借地林業(育林、伐出)資本家、林業賃労働者の三階級分化のもとで、賃労働者によって生み出された剰余価値のうち、資本家から土地所有者に支払われる平均利潤の超過分をさす。原生林および人工がまったく加えられていない自然的二次林(天然林)の場合には、その所有者に伐出資本から支払われるものは立木(りゅうぼく)代=地代という明確な姿をとる。しかし、育成的林業(育林と伐出)にあっては、立木代は単なる地代ではなく、地代はその一部分でしかない。しかも、現実には、立木価格の著しい低下と林業の不採算化により、地代どころか労賃すら実現されていない。

 日本の林業地代論の核心をなすのは、鉱山業類似の採取的林業と農業類似の育成的林業との同時点・異地点共存の論理をどう統一的に構築するかにある。この「二範疇(はんちゅう)林業」をめぐる地代論的考察は、石渡貞雄の『林業地代論』(1952)を嚆矢(こうし)として、その後、前進をみているが、いまだ完全なる結論を得ているとはいいがたい。おもな未解決の論点を示せば次のごとくである。

(1)市場調整的価格に採取的林業と育成的林業とがどのようにかかわるのか。すなわち、採取的林業の最劣等地の個別的生産価格が市場調整的価格になることには異論がないが、育成的林業の最劣等地の個別的生産価格が等置されるのか、差額地代分がプラスされるのかどうか。

(2)差額地代第二形態の成立をどのように理解するか、とくに位置の差額地代において。

(3)絶対地代成立のメカニズム

(4)育林資本を産業資本とみるのか、土地(改良)資本とみるのか。

 林業地代論研究が第二次世界大戦後、林野未解放に伴う半封建論争を契機として展開されたように、林業経済研究の前進に大きく寄与した一方、林業特殊性論の過度な強調により、研究の視点を不明確化させることになったこともみておく必要があろう。外材体制下の今日、外国天然林採取林業の個別的生産価格が日本の木材の市場調整的価格を規定することによって、劣等地の耕境外への放逐が進み、国内生産の後退が引き起こされている。また、外材との代替関係などを通じて樹種間・品等間価格差が拡大しつつある。さらに、国有林「合理化」の最終段階として国有・国営形態の見直しが迫られている。こうした今日的課題に林業地代論が有力な理論的武器として役割を発揮すること、すなわち、差額地代、絶対地代、独占地代の理論的発展を通じてこたえていくことが求められている。

[野口俊邦]

『石渡貞雄著『林業地代論』(1952・農林統計協会)』

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