化学辞典 第2版 「核模型」の解説
核模型
カクモケイ
nuclear model
現在,原子核に対して核放射や核反応の実験情報が非常に多く集められている.しかし,これを原子の場合のように一元的に統一して理解する理論は,いまだ完成されていない.核力が近距離力であり,原子のような力の中心がなく,その性質も交換力であるなど非常に複雑で,まだ十分詳細がわかっていないこと,さらに多体系問題に伴う数学的困難さなどが,その原因である.そこで特定の事項または物理量に対し,量子力学的な計算による期待値を与えるために,実験が暗示する核の内部の諸事情のとくに重要と思われる要素を抜粋して,核の取り扱いを簡単化したものが核模型である.したがって,その適用対象の質量領域,エネルギー領域などに応じ,多くの模型があり,その分類にもいろいろの立場がある.たとえば,多体系の核内における個々の粒子のふるまいが,粒子間で役割に軽重の差はあっても,全体的な核の諸性質に寄与すると考えるものがあり,独立粒子模型(independent particle model:IPM)という.一方,強い交換力的近距離力にもとづいて,核子は互いに強く協調的に作用しあい,全体的なふるまいが表れると考えるものがあり,強い相互作用模型(strong interaction model:SIM)といわれる.これらのそれぞれの系統にはフェルミガス模型,光学模型などがある.またSIMとIPMの両者を統一した統一模型がある.また,上に述べたいろいろの困難を避け,したがって核力や核の詳細は別として,核の大まかな平均量を統計力学や熱力学の手法で求め,核の全般的傾向を把握していくやり方があり,統計模型とよばれる.フェルミガス模型,液滴模型,複合核模型などは,その扱い方においてこの系統に入るといえる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報