精選版 日本国語大辞典 「統計力学」の意味・読み・例文・類語
とうけい‐りきがく【統計力学】
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
熱力学は本来、系全体のマクロな性質を扱うが、それをミクロな古典力学あるいは量子力学的情報から導き出す理論が統計力学である。熱力学では、熱平衡状態におけるマクロな物理量(状態量)に関する基本関係式を求めることができるが、物質に固有な性質に関するいわゆる状態方程式に関してはあらかじめ知られた関係として与えなくてはならない。系のミクロな情報、おもにハミルトニアンから熱平衡状態での状態方程式を導くのが統計力学である。
統計力学の始まりは気体分子運動論である。気体内の分子の速度分布を初めて求めたのはマクスウェルであるが、ボルツマンは気体が自ら熱平衡状態へ向かうという不可逆現象をH関数の減少によって説明した。この論の是非をめぐる議論によって、不可逆現象が統計性に由来することが明らかになり、エントロピーという量の微視的意味づけが確立された。
このように力学的な運動を考え、その定常状態として熱平衡状態を記述する試みに対し、ギブスによってアンサンブル理論が導入された。これは、等重率の原理とよばれる、等エネルギー状態の出現確率が等しいとする原理に基づき、多くの同等な系を考え、その集団での平均をもって熱平衡状態の期待値とする考え方である。この理論の正当化には、エルゴード仮説など位相空間での平均と観測の関係が重要になる。外界から孤立し、エネルギーが保存された系を扱うミクロカノニカル集団では、等エネルギー状態にある状態数W(E)の対数がエントロピーになっていることがわかる。
S(E)=kBlnW(E)
この関係はボルツマンの原理とよばれ、統計力学の基礎的性質である。また、温度が決まっている熱源とエネルギーのやりとりがある場合の系のとりうる状態の集団はカノニカル集団とよばれる。そこではエネルギーEiをもつある一つの状態の出現確率は、
で与えられる。ここで、Zは規格化定数で分配関数とよばれる。
さらには化学ポテンシャルが与えられた粒子源と粒子のやりとりがある場合のグランドカノニカル集団などがある。そこで、粒子数Nをもつある状態iの出現確率は、
で与えられる。ここで、Ξ(クシー)は規格化定数で大分配関数とよばれる。
[宮下精二]
統計力学は、熱平衡状態の性質を微視的な情報から求める手法であるが、より一般に、多数の変数が集団としてみせる現象も研究の対象になっている。熱力学第二法則は、熱の流れる方向を規定しているが、その流れ方については何も示していない。そのため、熱平衡状態にどのように緩和していくのかは未知の問題である。ボルツマンのH定理は、この問題に真っ向から取り組んだものであるが、一般化はむずかしく、通常は平衡状態に関してはアンサンブル理論によって取り扱われている。しかし現在、その緩和の問題が、非平衡統計力学の問題として盛んに研究が進められている。
粗視化による非平衡現象の把握に成功した例として流体力学がある。また、平衡に近い場合の線形応答理論(久保理論)は輸送現象などの解析で成功している。さらに、ブラウン運動の記述で導入されたランジュバン方程式や、分布関数の時間発展に衝突現象を考慮したボルツマン方程式など、さまざまな方法が考案されている。
[宮下精二]
物質の巨視的状態は,物質を構成するきわめて多数の微視的粒子(分子,原子,電子,原子核など)の性質および運動の総合的結果である.微視的要素の運動は,原理的には力学の法則によって記述される.この微視的世界の力学に立脚して,確率論的に巨視的世界の法則を導き出す理論的方法が統計力学である.とくに,熱平衡状態にある系に対しては,明確な理論が確立され,熱力学的現象を微視的立場から完全に説明することができる([別用語参照]統計熱力学).統計力学は,気体分子運動論にその萠芽がある.L. Boltzmannは気体分子に対する速度分布則の一般的証明のために,H定理を導き,さらにエルゴード仮説のうえにエントロピーSの統計力学的意味を示すボルツマンの原理,
S(N,V,E)=klog W
を与え,統計力学の創始者となった.ここで,kはボルツマン定数,Wは,粒子総数N,体積V,エネルギーEで指定された系が熱平衡状態で許される微視的状態の数を表す.Boltzmannに対して,J.W. Gibbs(ギブズ)は統計熱力学をさらに明確にした統一的な理論体系を建設した.これをGibbsの統計力学とよぶこともある.この方法は,のちにR.H. Fowlerらによって発展させられた.とくに,Gibbsが名づけたカノニカル集合は一定温度の熱源のなかに存在する統計集団を表現するもので,きわめて重要である.BoltzmannおよびGibbs時代の統計力学は,古典力学にもとづいているので,古典統計力学とよばれる.今日の統計力学は,本質的に量子力学にもとづく量子統計力学であって,古典統計力学は,その近似として成立する.非平衡状態に対する統計力学は,まだ簡明な統一的理論体系となっていない.代表的なものとしては,気体分子の位置・速度に対する確率分布の従う方程式を運動論的に解く方法,たとえばS. ChapmanおよびD. Enskogによる気体の輸送現象の理論がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
送り状。船荷証券,海上保険証券などとともに重要な船積み書類の一つで,売買契約の条件を履行したことを売主が買主に証明した書類。取引貨物の明細書ならびに計算書で,手形金額,保険価額算定の基礎となり,輸入貨...
9/11 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新