横浜絵(読み)よこはまえ

改訂新版 世界大百科事典 「横浜絵」の意味・わかりやすい解説

横浜絵 (よこはまえ)

1859年(安政6)に開港した横浜を舞台に,異国風俗を紹介することに重点をおいて描かれた,幕末開化期の浮世絵の一分野。その特徴はエキゾティシズムにあるが,これに影響を与えたものとして,それまでの唯一の貿易港長崎に生まれた長崎版画がある。またその題材は,開港後の横浜の開化風俗や外国人居留地の様子などのほか,舶載された銅版画などにヒントを得て描かれた異国の風景や見世物用の虎や象なども含まれる。作品はおおむね,その題材内容と量によって,開港直後の60年(万延1)から65年(慶応1)までの前期と,66年以降72年(明治5)までの後期に分けられる。前期は人物,風俗が中心で質的にもすぐれた作品が多く,後期は洋風建築などの風景や社会事象を紹介する時事的傾向が強まり,量的には前期の10分の1ほどに減少している。72年以降,外国人に対する興味関心が薄れるにつれて横浜絵も消滅した。これらを描いた絵師としては,歌川国芳門下が最も多く,次いで3代豊国系,そして初代広重系の作家がいる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「横浜絵」の意味・わかりやすい解説

横浜絵
よこはまえ

浮世絵の一ジャンルで、横浜浮世絵ともよばれる。1859年(安政6)の横浜開港以降、この地に関係のある異国文物を題材として描いた浮世絵版画総称で、明治まで多くの数量がほとんど江戸で版行されている。そのおもな内容は、市街俯瞰(ふかん)図、商館、遊廓(ゆうかく)、波止場船舶、異国人風俗・肖像兵隊、舶来商品など多岐にわたっている。絵師としては、歌川貞秀(さだひで)、2世歌川広重(ひろしげ)、歌川芳虎(よしとら)などが代表的で、ほかにもこの時期の多くの浮世絵師が描いている。なお、新橋から横浜間の鉄道が開業されて、これに刺激され、1872年(明治5)から多量の出版がみられたが、この時期の作品も横浜絵に含めるという見解と、明治以前のみを横浜絵とすべきであるとする見解もある。

[永田生慈]

『神奈川県立博物館編『横浜浮世絵』(1979・有隣堂)』


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世界大百科事典(旧版)内の横浜絵の言及

【浮世絵】より

… また浮世絵は純然たる絵画鑑賞の喜びを提供するばかりでなく,時事的な情報を伝達する機能も果たした。有名人の死没の直後にその肖像を描き,生前の事跡や辞世の和歌や句を記して追悼の意を表した死絵(しにえ),安政2年(1855)の大地震の直後に表れた鯰絵(なまずえ),あるいは開港後の新開地横浜の様子を伝える横浜絵などは,そうしたニュース性を強く織り込んだ浮世絵版画の例である。明治年間に入って一時期盛行した彩色摺の絵入り新聞すなわち〈錦絵新聞〉なども,浮世絵が本来備えていた時事報道の機能を,時代の要請に応えて一段と強化し,発揮させたものにほかならなかった。…

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