日本大百科全書(ニッポニカ) 「橋姫物語」の意味・わかりやすい解説
橋姫物語
はしひめものがたり
橋姫は橋の守護神で、その名は古くから知られ、とくに宇治の橋姫の伝説は有名。『古今和歌集』に「さむしろに衣かたしき今宵もや我をまつらむ宇治の橋姫」の歌がみえ、当時橋姫にまつわる民間伝承のあったことがうかがえるが、その具体的な内容は明らかでない。『山城(やましろ)名跡志』所収の「古今為家(ためいえ)抄」には、宇治川のあたりに夫婦が住んでいたが、あるとき夫が竜宮へ宝をとりに行ったまま帰らなかった。妻は恋い悲しんで橋のほとりで死に、橋守明神になったと記している。女性に対して嫉妬(しっと)深いと語られるのが通例で、『奥儀抄』には、昔、妻を2人もつ男がいた。その1人が宇治の橋姫で、出産が近づいて和布(わかめ)を欲しがるので、夫がこれをとりに行き、竜王に捕らわれた。夫を捜しに出た橋姫は、浜辺の庵(いおり)で再会するが、夜明けに夫の姿が消える。もう1人の妻がこれを聞いて尋ねるが、夫が橋姫の歌をうたっているのを聞いてねたみ、夫にとりかかると、たちまち男も家も失せてしまったとあり、2人の女性の嫉妬による緊張感が描かれている。橋姫の嫉妬に触れるのを恐れて、嫁入り行列が橋を避けて通る土地も各地にあった。山梨県西山梨郡(現甲府市)の国玉(くだま)の大橋では、橋の上で猿橋の話をすると怪異があるという。境を守る神として、道祖神との関係も深く、元来は男女二神の神で、橋の傍らに祀(まつ)られていたものと考えられる。
[野村純一]