正常妊娠

内科学 第10版の解説

正常妊娠(妊娠と腎)

(1)妊娠に伴う心腎血行動態の変化
 妊娠に伴い,はじめは血管抵抗は著明に低下する.その結果妊娠初期は血圧は下降傾向となる.一方心拍出量は妊娠初期は変化せず中期に上昇し,後期には再び正常に復する.血管抵抗の低下は腎血管でも認められ腎血流量が増加し,それに伴い糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)が増加する(図11-11-1)(Chapman,1998).
(2)妊娠に伴う腎機能の変化
 GFRは増加するが,Naは近位尿細管で再吸収が増加し,さらに遠位尿細管や皮質集合菅でもNa再吸収が増加する結果Naバランスは非妊娠時と同様に保持される.Kバランスは,妊娠中はレニン-アンジオテンシン系の亢進があり,アルドステロン濃度が上昇する.一方アルドステロンの働きは,皮質集合管において,妊娠中に増加しているプロゲステロンやエストロゲンの作用により減弱し,Kの再吸収低下にはつながらないとされている.濃縮力と希釈力に関しては正常の女性と差異がない.一方血清Na濃度は5 mEq/L前後低下している.この原因は不明であり,その結果血清浸透圧は10 mOsm/kgH2O前後低下している.酸・塩基平衡に関してみるとHCO3は18〜20 mEq/L前後に低下しており,呼吸性の代償とともにプロゲステロンが呼吸中枢を刺激することによってPaCO2が10 mmHg前後下降している.
 腎血行動態の変化に伴って尿酸,グルコース,アミノ酸の排泄にも変化が生じる.尿酸の合成は変化しないが,尿酸クリアランスが増加し,その結果血清尿酸値は2〜4 mEq/Lと低下する.しかし妊娠後期になり腎血流量も正常に近づくにつれ尿酸クリアランスも正常に復し尿酸値は5 mEq/L前後となる.尿糖はしばしば妊娠中に認められる.これは濾過されるグルコースが増加するにもかかわらず近位尿細管でのグルコース再吸収が増加しないことによる.アミノ酸においても同様な傾向がみられ,グリシンやセリン,アラニン,スレオニンの尿中への排泄増加がみられる.
(3)妊娠に伴う腎組織の変化
 妊娠に伴い糸球体と集合管がやや膨化する以外には大きな変化はないとされていたが,最近になり,正常の妊娠であっても内皮増殖症がみられるといわれている.
(4)妊娠に伴う尿路系の変化
 妊娠に伴い集合管や尿管が拡大する.妊娠水腎症という言葉があるくらいに,特に右の尿管が著明に拡張する.この原因としてはプロゲステロンによる作用,血流量が増加し,尿量が増加すること,蠕動運動が減弱すること,骨盤縁による圧迫などいくつかの要因が関与している可能性が指摘されている(Paller,2004).[鈴木洋通]
■文献
Chapman AB: The structure-function relationship in preeclampsia. Kidney Int, 54: 1394-1395, 1998.
Noris M, Perico N, et al: Mechanisms of disease: preeclampsia. Nature Clinical Practice Nephrology, 1: 98-114, 2005.
Sato K: 新しい“妊娠中毒症”の分類と定義について.日本妊娠中毒症学会誌,11: 15-44, 2003.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報