歯の表面に付着している微生物や食べかすを除去する目的で,歯ブラシを用いて清掃すること(英語ではtooth brushingという),またはこれに用いる歯磨剤dentifriceをいう。歯磨きは古くから行われていたと考えられ,古代エジプトの〈エーベルス・パピルス〉にも,ビロウの果実の粉と火打石の粉などを蜜で練ったものが歯磨剤として記載されており,これが世界最古の歯磨剤と推定されている。日本でも奈良時代以前から歯磨粉のようなものが使われていたらしいが,文献上は大郷良則(信斎)の《道徳塗説》中に,寛永年間(1624-44)の終りころ〈大明香薬〉または〈丁子屋歯磨〉の名で売り出されたものが,製造された歯磨剤の始まりとされている。
厚生省の調査によると,今日では国民の80~90%に歯磨きの習慣が定着していると推定されている。一般には市販の歯ブラシと歯磨剤を用いて,横磨き,縦磨き,描円法,回転法と呼ばれる種々な方法で1日1~2回歯を磨くことが行われているが,歯周疾患の治療や歯周組織(歯を顎骨に支えている組織)の保健のために,歯肉のマッサージを兼ねた歯磨きも行われている。歯根が露出しているときには,歯根の表面への強い横磨きを繰り返していると,歯根が削られ,水にしみるようになることがあるので注意を要する。歯ブラシによる清掃では歯と歯の間の不潔物(歯垢(しこう))をきれいに取り除くことは困難なので,歯と歯の間を清掃するためのブラシやデンタルフロスと呼ばれる清掃用具も発売されている。
歯ブラシと併用して歯と口中の清掃の効果を高めるために用いられる材料であり,ふつう市販されているものは薬事法上の化粧品または医薬部外品に属する。化粧品としての歯磨剤は,研磨剤,発泡剤,湿潤剤,香味剤などの成分から成り,口中を浄化して爽快にする,歯を白くする,口臭を防ぐ,虫歯を防ぐ,歯石の沈着を防ぐなどの効果をねらっている。一方,医薬部外品の歯磨剤は,上記の基本的な成分のほかに,フッ化物,殺菌剤,消炎剤などを配合することによって化粧品の効果の一部を強化し,また歯槽膿漏や歯肉炎の予防などの効果を期待するものである。剤形としては,粉歯磨と練歯磨とがあるが,現在では生産量の98%以上が練歯磨である。
執筆者:岡田 昭五郎+粕谷 豊
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