日本大百科全書(ニッポニカ) 「歯科保存学」の意味・わかりやすい解説
歯科保存学
しかほぞんがく
歯科の一分野で、歯および歯周組織の疾患が治療の対象となる。保存という名称が示すように、う蝕(しょく)(むし歯)や歯周病(歯槽膿漏(のうろう))にかかった歯を、抜去することなく残す治療方法を研究する学問である。歯科保存学は、保存修復学、歯内治療学、歯周治療学の三つに分かれている。
保存修復学は、う蝕にかかって変質したエナメル質および象牙(ぞうげ)質を除去し、その欠損部を補填(ほてん)する操作、すなわち、歯の切削法、補填材料の性質等を研究するものである。歯内治療学は、う蝕、充填物その他の刺激によって炎症を生じた歯髄の摘出のほか、歯髄が壊死(えし)に陥り、炎症が根尖(こんせん)歯周組織に広がった場合、その原因となっている根管の処置等に関し、その術式ならびに材料、薬剤等について研究を行うものである。歯周治療学は、いわゆる歯槽膿漏の予防法と治療法を研究するもので、対象は歯を支えている歯周組織である。歯槽膿漏の原因といわれる歯垢(しこう)、歯石の歯面への付着のメカニズム、性状、除去法等を調べ、さらに歯と歯肉の間に形成される病的な溝(歯周ポケット)の成り立ち、除去法等をその研究対象とする。いずれにしても、う蝕、歯髄疾患および歯周疾患の三者は、それぞれが独立した疾患ではなく、相互に関連性をもつものであるため、それぞれの治療においては、つねに相関関係を考慮しなければならない。
[吉野英明]