水産金融(読み)すいさんきんゆう

改訂新版 世界大百科事典 「水産金融」の意味・わかりやすい解説

水産金融 (すいさんきんゆう)

水産業に対する資金の貸借,信用の授受さし漁業金融ともいう。小生産者は本来,通常の金融ベースになじまないが,自然条件の影響を強くうける漁業ではとくにそうであり,このため漁家,中小資本に対しては特別の金融措置が講じられている。これには組合系統金融(単に系統金融ともいう)とそれを補完する制度金融(〈政策金融〉の項参照)とがある。前者頂点に立つのが農林中央金庫(農林中金),後者のそれが農林漁業金融公庫農林公庫)であり,大手資本には一般金融機関が応ずる。戦前期からの歴史をもつ系統金融機関および農林公庫は,1950年代前半に制度的骨組みを整備し,高度成長期に躍進する。漁場沿岸沖合遠洋へと拡大するにつれて,基軸的生産手段である漁船投資が活発化した。当初は農林中金を経由する農業の遊休資金に依拠していたが,しだいに漁業協同組合漁協)の資金力が充実し,60年代後半には県漁連を中心としてオーバーローンを解消する。しかし同時にそれは,資金需要者=中小資本,供給者=漁家の階層的区分を固定化させ,漁協-県漁連間の再預け転貸方式=〈すれ違い金融〉を定着させた。また系統金融機関と農林公庫の競合,調整問題が生じている。

 豊富な資金的後押しをうけて漁船の大型化,高装備化が進展したが,上向的発展自己資本比率が1割以下の借入金依存経営と分かちがたく結びついていた。そこで日本経済が低成長期に移行し,200カイリ体制を余儀なくされた1970年代後半以降には,低燃油,高魚価により支持,隠蔽されていた,過大投資による財務・経営基盤の劣弱さが顕在化し,政策金融による強力なてこ入れを不可避とした。漁業再建整備特別措置法(1976)に基づく緊急融資資金がそれの代表にほかならない。漁業全体としても借入金が年間生産額を超え,漁業金融体制を動揺させているといえよう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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