漁師や小規模の水産加工業者などを組合員として設立された相互扶助組織。水産業協同組合法に基づき、海産物の加工や販売、資金の貸し付けなどを行う。正組合員は1年間のうち、90日から120日までの間で各組合が定めた日数を超えて漁業に携わる人が資格を持つ。就業日数が基準に満たない人や加工業者などは准組合員になれるが、議決権がなく、組合の意思決定に参加できない。
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水産業協同組合法(略称、水協法。昭和23年法律第242号)を根拠に組織される協同組合のうち、漁業生産者を組合員とするもの。一般に漁協とよばれる。多くの組合は2001年(平成13)に全国漁業協同組合連合会(全漁連)により意匠登録がなされたJFマークおよび愛称JF(じぇーえふ)(Japan Fisheries Cooperative)の略称を使用している。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年7月21日]
漁業協同組合には、二様の類型がある。一つは、一定の地区内で漁業を営むか従事する者の組合員組織で、地区漁業協同組合(地区漁協)と称する。もう一つは、地域を問わず特定の漁業種類を営む者に限定した組合員組織で、業種別漁業協同組合(業種別漁協)と称する。前者は、沿海地区と内水面地区の区分が設けられ、地域の組合員のために定款の定めるさまざまな事業活動を行うことができる(俗に農協の類型でいう総合農協に相当)。水産庁「水産業協同組合年次報告」によれば、全国に沿海地区漁協は879(2021年3月31日時点。ただし出資組合数)存在する。後者の業種別漁協(農協の類型でいう専門農協に相当)では、たとえば底引網漁業、巻網漁業、養殖業等で組織される場合が多くみられ、全国に89の組合(同)がある。なお、一般に都道府県および全国段階には漁協の上部組織が形成される。協同組合組織全体を「系統組織」とよんでいる。
一般に漁協を代表する存在と目される上記沿海地区漁協をみると、1990年(平成2)には2127組合あったが、1990年代から2000年代にかけて漁協合併が進捗(しんちょく)し、組合員数とともに単協(地区単位の漁協)数もかなり減少した(全県ぐるみの合併もある)。しかし、漁協の組織や事業のあり方の特徴について基本的な変化はない。以下、沿海地区漁協の場合について述べる。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年7月21日]
一定地区内の漁民および中小漁業者を構成員とする沿海地区漁協の正組合員資格は住所要件のみならず以下のような限定がなされ、かなり独特である。(1)漁業を営みまたはこれに従事する者(雇用者)の日数が年間90日から120日までの間で定款にて定める日数を超える漁民、(2)法人漁業者の場合は常時使用の従業者数300人以下かつ使用漁船の合計総トン数が1500トンから3000トンまでの間で定款が定めるトン数以下の者ならびに漁業生産組合、とされる。すなわち、住所要件および漁業従事日数要件、地区内に事業所を有する法人については経営規模要件等が水協法(18条)で限定されており、農協等他の協同組合の場合と異なり、定款において組合が自由に規定できる余地は狭められている(法定組合員制度という)。背景として、組合漁業権管理の主体として漁民の生産活動の場が確保されうるよう図られてきたという歴史性や、いわゆる非漁民等の組合加入排除という制度の目論見(もくろみ)があった。なお、水協法では地区漁協組合員資格を漁業を営む者に限定できる(いわゆる経営者組合とする)定款設定を認めている。
また、准組合員制度を設ける場合にあっても、上記従事日数要件や規模要件を満たさない漁民や中小漁業者、ならびに水産加工業者、遊漁船業者等について法定の枠内での規定と要件の遵守が求められており、准組合員は単に議決権をもたない組合事業・施設利用者というにとどまらず、「准漁業者」あるいは「漁業者予備軍」的存在としての意味合いがあることは漁協独特のものといえる。
沿海地区漁協の総組合員数の動向をみると、1990年代のなかばまでは50万人を超える勢力であったが、2000年(平成12)ごろから毎年平均して1万人を超える減少がみられ、2019年度は28万人弱へと縮減した。しかも、准組合員数が正組合員数を凌駕(りょうが)する推移となっている。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年7月21日]
地区漁協は組合員の経済的社会的地位の向上を目的としたさまざまな事業活動を行っているが、漁協のできうる事業活動の範囲は農協等と同様に協同組合事業の「制限列挙主義」により法定されており、営むことのできる事業は制限され、かつ定款記載を義務づけられる。水協法(11条・17条)においては、資源管理・増殖、営漁指導、信用、購買、販売、共済、共同利用施設、漁場利用、漁場保全・管理、遭難防止・救済、福利厚生、漁船保険・漁業共済の斡旋(あっせん)、漁業自営等17種類の事業が列挙されているが、実施の具体的内容や方法については各々の漁協の自主的規律に任されている。しかし、沿海地区漁協の実施する主要な事業動向には基本的な特徴がみられる。事業総利益ベースでみる事業部門の大半は一貫して販売事業である。販売事業は事業総利益の40.6%を占め、ついで購買事業13.8%、指導事業13.2%、漁業自営事業6.8%、製氷・冷凍事業4.4%、利用事業4.1%、信用事業4.1%、加工事業3.2%と続いている(水産庁「2019年度水産業協同組合統計表」)。信用事業・共済事業が主要である総合農協の場合(両事業総利益の合計が全体の約7割を占める)とは基本的に異なる特徴である。漁協の場合、組合員の直接生産活動や地域漁業に依拠した事業展開が中心となっていることが示されている。また、制限列挙制度のなかにおいても、今後地区漁協の事業活動は漁場環境の保全、資源の保護、ならびに漁業・漁村の多面的機能の発揮や福利厚生の充実等の課題を受けていっそう多様化せざるをえない。主要事業について一瞥(いちべつ)する。
(1)販売事業 組合員の漁獲物や加工品を一括集荷して販売する事業。俗に共販(共同販売)あるいは系統共販とよばれ、共販運動や魚市場(産地卸売市場)開設運動等、戦前より歴史のある事業である。沿海地区の80%は販売事業を実施している(2020年3月31日時点)。事業方法として開設した魚市場での、せり、入札、相対(あいたい)等による取扱い(漁協系統が開設する魚市場は全国に612、2018年時点)、漁業者・組合員からの直接買取販売、直売施設販売、加工・冷凍品販売等も含まれる。当該事業はIT活用・ネット通販や末端販売強化、高付加価値型流通やブランド化、輸出販売強化、協同組合間提携、JF女性部の地域資源を生かした加工販売活動等、需給情報化技術や振興施策等の後押しを受けて今後とも幅広く多様化する傾向がうかがわれる。
なお、製氷・冷凍、加工、漁業自営等の各事業も、組合員の個別経営や生産活動に直接かかわる事業とみられるので販売関連事業といえる。
(2)購買事業 組合員が必要とする漁業用資材や生活用品などを一括購入し、組合員へ供給する事業。沿海地区のおよそ9割の漁協が実施しており独特の内容を有している。すなわち、石油販売高が全事業供給の半数近くを占め、続いて4割強が資材関係購入である。漁業用燃油や養殖資材等については上部系統団体である都道府県漁業協同組合連合会(漁連)、全国漁業協同組合連合会(全漁連)を通じて安定供給を目ざす、いわゆる系統購買が進んでいる。しかし、その他の物資は組合員が商系ルートより購入する場合が多く、当該事業は農協などに比べ比較的低調な水準にとどまっている。生活物資購買についても(農協系統の「Aコープ」等と比べ)地域にもよるが事業高は全国的には低位である。しかし、合成洗剤を使わないせっけん使用推進運動等、JF女性部の活動を伴った地区漁協の購買事業は重要な役割を果たしている。
(3)信用事業 組合員の貯金受入や資金の貸付を行う事業。組合はかつて「買占め商人」「仕込商人」の前期的支配に対抗して、自立した漁業・漁村のために系統金融体制の確立を目ざした歴史があり、その中心に販売事業と相まった信用事業の展開があった。漁業経営に必要な資材の購入、ならびに漁船・漁網などを取得するにあたって、漁業者は一般的に自己資金や担保物件が乏しく、漁協はこれらの設備資金需要に対して農林中央金庫や日本政策金融公庫等の系統資金・制度資金からの原資調達や債務保証を行う事業活動を担っている。なお、系統資金は都道府県ごとに設立されている信用漁業協同組合連合会(信漁連)を経て供給される。この系統金融体制は1950年代以降組合の貯金増強運動もあり著しく整備され、順調に系統金融が推移して漁業を支える役割を果たした。しかし、200海里経済水域時代に入って漁業の経営破綻(はたん)問題が続発し、また、1990年代におけるバブル経済破綻や規制緩和と金融の自由化時代を迎えて系統金融・漁協信用事業は縮減の方向が強まった。2000年代に入り信用事業は漁協合併や信漁連への事業統合によって事業基盤の再編強化が図られている状況にある。信用事業実施組合は2000年ごろは50%を超えていたが、2020年3月31日時点では全体の13%程度にすぎない。
(4)漁業自営事業 当該事業は漁協のあり方を示す独特のものといえる。単に生産の共同化、協業化の増進というだけでなく漁場の総合的利用、漁場調整、および漁利の分配等、組合員の個別経営や漁場の有効利用に責任を負う漁協独自の役割を踏まえたものである。また漁協の格別に重い経営責任にかんがみ、行政庁の認可、ならびに組合員の3分の2以上の同意やこれに常時従事する者の3分の1以上が組合員または組合員と同世帯の者とする等の要件が課されている。漁業経営を実施する地区漁協は2020年3月31日時点で、全体の2割程度である。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年7月21日]
水協法において2018年(平成30)12月、重要な改定が行われた。一つは、漁協の事業の主役となっている販売事業を展開するにあたり、理事のうち1名以上は水産物販売の実践的な能力を有する者を登用すること、もう一つは、貯金総額200億円以上の漁協および信漁連においては従来の全漁連による監査から新たに公認会計士による監査の導入を図ることとした。一定の移行期間を設けた規定であるが、漁協の販売事業推進や信用事業実施組合の健全性確保(信用担当の常勤理事配置の義務づけはすでに実施されている。2002年改正)等に関して、いっそうの取り組み強化を促したものといえる。また、組合が事業を行うにあたっては水産資源の持続的な利用の確保および漁業生産力の発展を図りつつ、漁業所得の増大に最大限の配慮をしなければならないことが明記された。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年7月21日]
漁民を構成員とする協同組合で,水産業関係の協同組合,すなわち漁業生産組合,水産加工業協同組合とともに,水産業協同組合法(1949公布)に基づき行政庁の許可を得て設立されたものであり,これら3組合のうちで数の上でもまた活動範囲の点でも,最も大きい。漁協と略称。組織形態としては,まず漁民が直接に組織する単位の組合と,この単位組合が連合して組織する連合会とがある。単位組合のうちには地区を決めて設立される地区漁協と,営む漁業種類にしたがって設立される業種別漁協とが区別され,前者が3000弱,後者が200強ある。地区漁協には,沿海の漁業に関係する沿海地区漁協と,内陸の河川や湖沼の漁業に関係する内水面漁協とがある。いずれの漁協にも,出資制度のものと非出資制度のものがあるが,今日ではほとんどが出資制をとっている。なお,漁業生産組合は単位漁協の一成員となる場合が一般であるが,また直接に連合会の成員になることもできる。漁業生産組合は一種の生産組合であるので,その組織制度には特別の規則がある。すなわち組合員の3分の2以上が組合の営む事業に常時従事しなければならず,組合の営む事業に常時従事する者の2分の1以上が組合員でなければならない。また組合剰余金は,出資配当(年1割を超えない範囲)ののち,組合員が組合の事業に従事した程度に応じて配当される(従事分量配当)。
漁協の連合会には,県の水準あるいは湾といった範囲でのものと,さらにそれらを全国にまとめた全国連合会とがあるが,地区単協→県連合会→全国漁業協同組合連合会(全漁連)という系列と,業種別単位漁協→全国連合会という業種別漁協の系列とがある。
漁協の特色としては以下のような点があげられる。(1)組合の成員の複雑さ。漁民には,沿岸の磯漁を営む零細な漁家経営者,沖合・遠洋漁業を営む多くの中小資本漁業経営者,および漁業に賃労働者として雇われる漁業従事者というように,異質な階層が含まれている。現行の法律では,組合の定款によって,漁業従事者を正会員から排除ないし準組合員とすることができる。カツオ・マグロ漁業のようにそれに専業しなければならない漁種の経営者は,必然的に〈カツオ・マグロ漁協〉という業種別漁協を設立するが,今日,漁港の市場の経営が地区漁協ないしその系統によって行われていることや,信用事業の利用上の便利さや,地域社会のつながりなどから,業種別漁協の成員の多くが同時にまた地区単協の成員にもなっている。(2)組合の活動の複雑さ。漁協の中心は沿海地区単協であるが,これの多くは沿海の水揚げ魚市場を経営し,その上に信用・購買,利用等,各種の経済事業を営むが,他方では国から共同漁業権の免許を受け,これを管理する漁場管理団体でもある。(3)地区単位漁協のうちには,多くの零細規模の組合と,数は少ないが大漁港市場を経営する世界的にも大規模とされる組合とがある。
漁協の出発は1886年の漁業組合準則(漁業組合)であるが,1901年に制定された漁業法により,地区を単位とする漁業組合が漁業権管理団体として正式に発足した。その後,共同販売をはじめ金融事業の要求が高まるのにともない,33年,37年の法改正を経て漁業協同組合として発展したものである。なお西欧の組合は,中小漁業者が水産物の冷凍・加工およびその販売を目的とするものが多く,アメリカでは加工工場への漁獲物販売の交渉機能が中心である。北欧3国の場合には,魚価の規制等をも行う半ば公的機能をも果たしている。
執筆者:黒沢 一清
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