改訂新版 世界大百科事典 「水素欠乏星」の意味・わかりやすい解説
水素欠乏星 (すいそけつぼうせい)
hydrogen deficient star
スペクトルに水素の線がまったく見られないか,きわめて微弱な星。このような特異な星はまだ10個ほどしか知られていない。水素は宇宙の総質量の70%を占めるもっとも多量の元素であり,星の標準的スペクトル型には必ず水素のスペクトル線が存在する。たとえ水素の含有量の少ない星があったとしても,スペクトルにはほとんど変りはなく,むしろ逆に水素の線が増強される傾向があることが理論的に予想される。スペクトルに水素欠乏の兆候が現れるのは水素の含有量が正常値の1/105以下の場合に限られる。HD30353という星はその一例で,A5型相当の温度をもつ超巨星であるが,その水素含有量は正常値の1/105で,金属は重いものが過多の傾向を示す。かんむり座R星はF型相当の温度をもち,水素が少ないだけでなく炭素がきわめて過多である。そのほか,水素が少なくてヘリウムの多い星もある。星の進化の通説によれば,星の内部では熱核反応によって水素がヘリウムに変換されるために,水素が欠乏するのは当然であるが,それは星の中心部だけのことで,表面にまでは水素の欠乏状態は現れないはずである。したがって,水素欠乏星として観測されるためには,星の外層をはぎ取る必要がある。例えば近接連星系で力学的にその操作が行われるとも考えられる。なお,白色矮星(わいせい)や中性子星は水素が欠乏しているはずであるが,これらは水素欠乏星とは呼ばれない。
執筆者:大沢 清輝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報